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【超雑感】映画『ブラックパンサー/ワカンダ・フォーエバー』

監督:ライアン・クーグラー

脚本:R・クーグラー、ジョー・ロバート・コール

2022年11月11日公開 161分

2022年11月11日、グランドシネマサンシャインにて鑑賞


※感想後半のネタバレ部分には注釈があります

※終盤に小ネタ・イースターエッグの解説があります

 

 

秘密国家ワカンダの守護者、ティ・チャラ国王(チャドウィック・ボーズマン)が死んだ。彼を救えなかったことへの後悔から、閉じこもり研究を続ける妹・シュリ(レティーシャ・ライト)。そんな折、ワカンダにしか存在しないと思われていた神秘の金属ヴィブラニウムが海底でも発見される。各国がその獲得を狙うなか、海底王国タロカンの王ネイモア(テノッチ・ウエルタ)が地上に現れ……


・良くも悪くもすんげ〜〜〜〜マジメな一本。


・そもそもこの映画、初っ端から背負ったノルマが多すぎる、というのはある。


・まずは何より、ブラックパンサー/ティ・チャラ役チャドウィック・ボーズマンの追悼。言わずもがな前作の主演俳優であり、かつマーベル・シネマティック・ユニバースの新たな顔役の一人でもあり、さらにアフリカ系スーパーヒーローの代表でもあり……だったチャドウィックの急死に対し、リキャストせず向き合う、という判断。


・さらに、主役はワカンダという国を継いでいくであろう少女シュリ。当然ながら様々な文脈、重すぎる責任が乗っかってくる。


・新キャラクターである海の王ネイモアは、脅威として登場させつつ MCU新ヒーローとしても見せたい。天才少女リリ・ウィリアムズはシュリと重なる部分も多い友人として、さらにアイアンマンの一部を継承していく新ヒーローとして。


・昨今のBLM運動や、"国"というもののあり方を反映させたブラックパンサーの『2』であらなくてはならないし、さらに専制君主制やワカンダvsタロカンの国家間戦争を描くとなると……


・……といった真摯さマジメさ手堅さの結果、一本のエンタメ映画としてはなんだか物足りないな〜〜、という印象になってしまった。


ノルマクリア成功!!!(太鼓の達人)というか。


・こういった多大すぎるノルマがある以上、全員を満足させられることは決してない……し、ベストは尽くされてる(でないと困る!)のもわかる。自分は「もっと上手くできただろ〜〜」みたいに思ってしまった部分、が勝っちゃった側。


・ただ、いろんなトピック……今回の場合は特に国家間戦争……に対して真面目に向き合う上で、安易にアツくする、観客を燃えさせる、という展開にしてしまう危うさはあり、あえてそこにブレーキをかける作りになっていたのではないか……というのは 一緒に観た友だちかがせさん)の談。


・確かにそう捉えると、いくつかのシーンは腑に落ちる。詳細はネタバレのため後述。


・その上で……もっと上手くできたと思うトコも結構あるんだよな〜〜〜〜!!!!正直!!!!


・ものすごくマジメにノルマをこなしつつ、堅実な『2』としての続編。ライアン・クーグラーの本領発揮、という感じでした。


・あと本作MVPはラモンダ女王/アンジェラ・バセットの僧帽筋です。


・相方のかがせさんとネタバレ込みの感想を語りまくった1時間ぶんのトークをYouTube『リモコンラジオ』にアップしたので、こちらもゼヒ併せてお聴きください。絶対にまた観たくなります。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

〜以下、ネタバレがあります〜

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 


・冒頭、死の床のティ・チャラを救おうと奮闘するシュリの視点から。


・もちろん現実のチャドウィックの急死を反映してのものではあるものの、たとえばこの映画が10年後、20年後にシリーズの一部として振り返られた時……彼の死がこれほど突然に明かされたものであり、その衝撃と悲しみは世界を覆うほど偉大な存在だった……という事実を記録する、という意味合いもあるのだろうか。


死に目に会えない、という言葉があるように やはり最期の瞬間に立ち会えなかった、というのは……もちろん立ち会っていたとして、何かできるというワケでもないものの……自分には何もできなかった、という無力感で人を打ちのめすもの。


・……に 相対した時、では残された者たちは、我々は、これからどう生きていくべきか?というのが本作のテーマの一端であると理解。


・オープニングロール。『キャプテン・マーベル』の時も故スタン・リーを偲んだ特別バージョンだったが、今回もチャドウィック仕様。


・スタンの時は(彼自身のキャラクターや劇中の役どころを反映させてか)ちょっとオモシロ方面に寄った演出でもあったが、今回はマジメに。映像の入りも暗転ではなく、ジワッとフェードインさせることで流れを断ち切らない、あるいは容易に想いを断ち切らせてはくれない。


・BGMがない(風の音のみ)のも、観客おのおのがチャドウィックに想いを馳せられるように、という意図か。


・精神的・物理的な守護者であったティ・チャラの喪失を大きなテーマにしつつ、チャドウィックの映像は最初と最後だけにまとめたのはいいバランスだったと思う。


CGで復活したらポップコーン投げてたから……


・ていうか死者のCG復活、自分あんま好きじゃないんですよね。


・AI美空ひばりとかもあったけど。やっぱり死者の映像や声を再生して新しく作っちゃうこと……しかもそれをコンテンツとして公開すること……は、技術的には可能でもやっちゃいけないこと、に当たるんじゃないかと常々考えていて。


・写真や彫像と比べた時に、声や映像には主体的な意識がより介在する(わざわざやろうとしないと残らない度合いがより強い)ものだし。ということは逆説的に、声とか映像からはその人の意識が読み取れてしまうワケで。


・ただ、AIで精巧に再現した声や映像には当然その意識が入っていない……のに、読み取られてしまう。コレは……意識、すなわち魂への冒涜じゃないのか!?というのが自分の持論。


・そりゃ〜〜まあ 懐かしい声とか表情を見たら泣けてくる。そりゃそうよ。


・でもやっぱり その泣ける感情っていうのは、死者がかつて持っていた魂と自分の魂、の間にあった何か、から呼び起こされているものであって……その感情をかき立てるために、第三者が 死者の意識を精巧になぞった音声や動画を持ち出すのは……それはやっぱり 違うと思うんですよ。


・たとえばドキュメンタリーとか、今回のオープニングロールとかも 第三者の介入と演出によって死者への想いがかき立てられるんだけど……アレはあくまでそういうモンだとわかった上での物であって。まるでそこに本当に意識があるのかも……と思えてしまうほどの声や映像は危険すぎるっていうか、人間の感覚の踏み込んじゃいけない領域に容易に踏み込んでしまえるのではないか、と思います。


・……を 今回やらなくてよかった〜〜って話なんですけどね。前置きが長い!!!


・ネタバレ前の部分にも書いた、意図的にモヤモヤを残すことで安易に観客を燃えさせない、あるいは明確に片側に寄った結論を出させないようにしているのではないか……と思ったポイントは、大きく分けて2点。


・①タロカンの見張り死亡〜ネイモアの演説の流れと、②シュリの装着〜ネイモア捕獲作戦の流れ。


・要は国家間の戦争を描く上で、正義・悪側を明確に分けてしまわないこと、観客がそこにノってしまわないこと……は 意図的にやっていたんじゃあないかな、と。


・たとえばワカンダとタロカンは戦争になりかけるけど、そこに第三者の大国が敵として現れ、二国が協力して……とか。やろうと思えばなんとでもできたところを、そうはしなかった。


・さらに言えば、今回のネイモアの結論についても。ブラックパンサーに命を救われて目を覚ましました、やっぱり平和が一番だぜ!とかでは決してなく。いずれ地上世界がワカンダを敵に回すことを予期した上で、あくまで口実としての和平を結んでおき……もし戦いが起これば、正当性をもって地上に侵攻できる……と。


・実際、悲しいかな 国どうしの和平なんてものはこういった緊張状態の上で成り立っていくものなので。これはまた、個人レベルから国家、惑星、多元宇宙にまで拡大していくMCU作品世界の、スケールの大きな協力・敵対関係を描くことにも繋がっていくのではないかな……と思う。


・①に関しては、要は前作『ブラックパンサー』で銃撃されたロス捜査官を救ったシーンのリプライズでもあると思うんだけど。だいたいああいう時、自分に銃を向けた見張り役であろうと……命は救うぜ!っていうのがセオリーなところを、そうはできなかった。

 

・それはまた、ティ・チャラの理想を継ぎながらも様々な現実を目の当たりにしてきたであろうスパイ(ウォードッグ)であったナキアの判断が大きかったのかもしれないし、もっと言うならばタロカン人やネイモアに対する未知からの恐怖が勝ってしまったのかもしれない。


・街を観光したくらいで「同じ人間だよね!」……なんてわかり合えたら苦労しねーよ!という意味合いもあるのかも。


・②に関して。予告でも大いに煽られた新ブラックパンサーの登場シーン……ではあるものの全然ノれない、というか明確に観客をノせないようになっている。


"変身"というものは単なる肉体的なもののみにあらず、精神的な成長・変革を含んでこそ……というのは、近年の日本のヒーローでもテッパンの概念だと思う。


・いわゆる"覚悟完了"じゃないけど。


・ハーブの力を手に入れた、スーツも仕立てた、しかし精神面は?復讐心と燃え上がる怒りに囚われ、祖先の平原で母に会うことも叶わなかった。


"祖先の平原"に関して。広がりまくったMCU世界においては……それこそ『ムーンナイト』でもタウエレトが言及してたり、まあ実際に死後の世界として存在はするんだろうけども。こと この作品においては、どちらかというと ホントに死者に会える場所に移動する、というよりは ハーブの効能によって自分の記憶の中の死者と向き合う、という解釈を取りたい。


(ちょっと本題から外れるけど)MCUにおける"死"に関して。コミックにおいては言わずもがな死と復活が日常茶飯事で、おそらく今後のMCUにおいてもコミック的な世界観に近付いていくのであろう……と思われるし、となると死後の世界もいろいろ出てくることでしょう。


・で、前述の『ムーンナイト』ではエジプトの冥界、『ラブ&サンダー』ではヴァルハラ、ワカンダからは祖先の平原……などなどを描くことによって、MCUで"死後の世界"を登場させることによる作品世界の物理的な拡大と、さまざまな死の概念、すなわち多様な文化が共生する精神的な拡大、を一石二鳥で進めていくのではないか……と考えています。


・閑話休題。要はシュリが母ラモンダに会えなかったのは、あの時の精神状態ではまだ「顔向けできなかった」ということなんじゃないかなと。


・キルモンガーことウンジャダカの登場もいい。シュリが「世界を燃やしたい」と語る根っこにあるのは自分の無力感への嫌悪だろうからウンジャダカとは根本が違う気もするんだけど、復讐心の行き着く果てとしての炎の象徴、なのだろうと解釈。彼は結果的に復讐を果たした存在でもあるし。


・実はウンジャダカとシュリってそこまでガッツリ絡むシーンはないんだけど、ああいう時に恐怖と憎悪の象徴として親戚のスゲ〜怖い兄ちゃんが出てくるのって……なんかわかるわ。


・ウンジャダカに関しては彼のIFストーリーが『ホワット・イフ…?』でも描かれた通り、どんな運命を辿ろうがダークヒーローじゃなくて明〜確に悪=ヴィランである、という解釈が好み。なので今回の登場でも……なんかいい感じに美化されてたり……とかもなく、満足!


・ネイモア捕獲作戦においても、これまでは戦士を鼓舞する鬨の声だった「イバンべ!」が恐ろしく、そして虚しく響く。その声の矛先は世界を守るための戦いではなく、国を破壊され女王を殺された復讐であるから。


・しかも、兵士たちはあくまで捕獲作戦として動いている(タロカン人たちに対し あろうことか船上を作戦区域に選んでいるほか、アイアンハートも足止め用の装備。明らかに時間稼ぎが目的の作戦であろう)のに対し、シュリ本人はバリバリ殺す気でいる始末……


・ワカンダを代表する、ひいては現実世界においてもアフリカ系の人々を鼓舞してきた「ワカンダフォーエバー!」ですらも、仇敵をあわや爆殺するところにまで追い詰めるための道具として使われてしまう。


・ネイモアとの戦いの結末。ラモンダ女王がシュリに伝えたのは「自分が何者か示しなさい」という、ある種の突き放した言葉であったのが良い。これは前作でも、ティ・チャラがエムバクと戦った時(意識を失いかけた時)に彼を目覚めさせたのと同じ言葉で、明確に不殺を指示するでなく、自分の娘、ティ・チャラの妹、ワカンダの女王、そしてシュリ自身としてどうあるべきか、を彼女に思い出させたと。


・……などなど、難しいことを難しいままに留め置くような意図を感じさせる展開は評価しつつ……その上で!!!ココはもう〜〜ちょっとバシッとやってほしかったぜ、な部分も挙げていきたく。


・まずは何よりアイアンハート/リリ・ウィリアムズについて。コミック的にもMCU的にも新世代を担っていくキャラクターのお披露目……ということで、大いに期待していたポイント。


・MITの場面ではどうしても『シビル・ウォー』のピーター・パーカー初登場〜勧誘が想起されるし、洞窟に捕まって→メンター的な人が殺され→アーマーを組み上げ、では初代アイアンマン/トニー・スタークの軌跡もリプライズ。


・……といったノルマはクリアしつつ……まず人間として、彼女ならではの魅力があまり見えてこなかったように思う。


・シュリとの共通点である"若く才能ある黒人"(young, gifted and black、ニーナ・シモン、アレサ・フランクリンからチャドウィック・ボーズマンが引用した名言としても知られるフレーズ)は公開前から強調されつつ……それ以上の何か、が見たかったというのが本音。


・シュリが復讐に囚われ→決意と覚悟によってそこから解放されていくプロセスに、友人としてリリの存在がほとんど関わってこないのが痛い。


・なんならネイモアとの交渉材料として扱っちゃってるし。一生ワカンダから出さないって何!?(まあ コレはあくまで交渉の話ではあったけど……)


・アイアンハートの活躍も……予告でも強調されていた鉄のハートを金属板から打ち抜く描写も(アレ絶対スーツには使ってないよね?)特に意味はなかったりとか。


・初期のアイアンマンで印象的だっただけで、実はMCUって装着シーンをあんまりやらない……というのはあれど、やはり装着シーンはバシッと見せてほしかった。


・マーク1スーツの戦いも、トニーが初飛行で高高度を飛びすぎて凍結したシーンのリプライズ……なんだろうけど、であればそこから復帰するのには(かつてのトニーを超えるような)何かしらのギミックがほしかった。気合いて。


・マーク2、ネイモアの機動に対抗するために空中でブースターを組み替えるシーンなんかはカッコ良かったけど。


・超天才の手によるものとはいえ、あのレベルのスーツや武器(と、アークリアクターもアレは手製?)が個人で作れちゃうトコまで来てる……ってのは怖くもありますね。バルチャーも盗品を組み合わせてスーツを作ってたけど、このへんの危うさも『アーマー・ウォーズ』でやったりするんでしょうか。


・スーツで言うと、ミッドナイト・エンジェル(ズ)も。コミックそのままなブルーメタリックのデザインはなかなかカッチョイイんだけど……「何体あるの?」って言われたらさ〜。追い詰められたワカンダ軍!あわや!のシーンにズラーッと現れて……押し返す!が見たかったんですよね。せめて5〜6体はほしかったところ……2体て!!!


・装着シーンもないし。なんならマスクを開放して素顔を晒すシーンの方がカッコ良い……ってそれどないやねん。


・コミックでこのスーツを着るのは、映画と同じアネカと もう一人は彼女の恋人アヨ。MCUでは『ファルコン&ウィンター・ソルジャー』でバッキーを追ってきた人、でおなじみ。本作でも終盤でアネカとアヨが恋仲であることが明かされる。


エムバクにもアーマー着てほしかったな。胸当てブチ破られちゃったから、てっきりそういう展開かと思った。


・今回、エムバクは全面的にカッコ良かったですね。野生味あふれる雄の魅力をムンムン漂わせつつ……彼もまた、ティ・チャラ亡き後いろいろ頑張ってるんだろうな、と端々から窺える感じ。


・シュリを王女として・親友の妹として支えようと気遣うシーンの機微もよかった。ワカンダ内でも孤立した一族の長として苦労してきたことも色々あったであろう優しさ……が、それを跳ね除けてしまうシュリの傷心を浮き彫りにしていた。


・あそこでシュリに"エムバク卿"って呼ばれるのが、他人行儀というか 突き放してる感あってイイですね。


"ククルカン"の発音もクセになる。


・タロカン軍のワカンダ急襲シーンでも、船がひっくり返されたと見るやなりふり構わず飛び込んで(あんな重い防具着てるのに!)ザンブザンブ泳いで助け出して……からの「インベーダーーーーーーーーーーズ!!!!」最高すぎる。


・あんなハイテク国家なのに情報伝達が大声て。


・カッコ良かった、で言うと ラモンダ女王はもう今回のMVPでしょう。


・名優アンジェラ・バセットを起用しつつ、前作では若干もったいなさ・物足りなさを感じるポジションだったラモンダ様。もう今回、腰抜かすほどカッコ良かったッス。


(コミックにおける彼を含め)ティ・チャラという男の魅力が最大限に発揮されるのって、自分が格上だと思ってナメてくる野郎にタンカを切る時、だと思ってるんですよ。思い返すとこの母にしてこの子ありというか、ティ・チャラのああいうトコは母上から受け継いだ部分が大きいんじゃないかな……


・……と 思わせるほどの迫力と説得力。気品と力強さが同居するファッションも、服を"着こなす"というのはこういうことである、と見せつけられたかのよう。


・オコエへの激しい叱責も、自身の喪失感と無力感に苛まれてのものであろうことが窺える名演技。まあ実際、作戦を許可したのは女王の責任でもあるもんね。


・それにしてもオコエ、ブラックパンサー登場からサノスとの決戦、そして今回……と、MCUでワカンダが巻き込まれるゴタゴタの責任を一手に背負わされる、大変不憫なキャラクターである。


・そりゃまあ王の警備主任とはいえ……国連爆破でチャカ王死亡、前王子の隠し子にチャラ王も殺され、恋人ウカビは甘言に乗せられて反乱からの逮捕、戻ってきた王は目の前でまた消滅、混乱する世界でアベンジャーズを5年間支え、またまた戻ってきた王は頼ってくれず病死、疲労困憊の所にいきなり現れたバカ強い海底人に王女もさらわれる、という。


なんぼなんでも不憫すぎる。お祓いとか行って美味しいもの食べてほしい。


・オコエはじめドーラ・ミラージュの槍アクションはサイコー。前作はアクションがイマイチ、という評判もあったけど(これに関しては『シビル・ウォー』のパンサーがカッコ良すぎたっていうのも大いにあると思う)、今回は冒頭のヴィブラニウム争奪戦からして燃える燃える。


・槍の先端で動きを封じつつ、徹底して柄の部分で非致死性のトドメを刺しまくるのがクールかつ見せ方もわかりやすい……し、ラモンダ女王の方針も窺い知れる。


・サントラのチョッ チョッ チョッ……という歌声も印象的。今作のインスパイア・アルバムに収録されている、『Born Again』(リアーナの曲で『Lift Me Up』じゃない方)『They Want It, But No』にもサンプリングされてたり……たぶんみんな好きなんだと思う。カッケーもんね。

 

They Want It, But No

They Want It, But No

  • Tobe Nwigwe & Fat Nwigwe
  • サウンドトラック
  • ¥255
  • provided courtesy of iTunes


・橋の上でのタロカン人アットゥマとの戦いも外せない。BGMが抑えられ、まさに"決闘"の様相。強烈な打撃の猛攻に、ヴィブラニウムの槍も震える震える。ここでオコエ死んじゃうのか!?とすら本気で思った。


・今回から登場、海底王国タロカンの王ネイモア。コミックではまたの名をサブマリナー、実はマーベル・コミックスの発行第1号に登場したヒーローの一人……といっても 最初期のマーベル・コミックスは怪奇小説みたいな感じなので、ヒーローというかクリーチャーみたいな初登場ではあるけど。


・潜水服を着た調査員たちを海底で殺害するのもこの第1号での描写が元ネタか。


・ヒーローとはいえ一国の王、かつ……これまで読んだいくらかのコミックから判断する限りでは、かなりヒネくれた打算的な人物……という印象。だいたいケンカしてる気がする。


足首についた羽で空を飛ぶ、という冗談みたいなビジュアルの映像化はマジでお見事。スピードスケートみたいな動きで、まさしく"空を駆ける"という例えが相応しい空中機動。サイコーにカッチョイイ。


・コミックでのネイモアは、人間の父とアトランティス人の王女から生まれた子、かつ人類の進化系ともされる突然変異体(ミュータント)の一人。


・MCUでは海底王国の設定が丸ごと変更。“アトランティス"から、スペインからやって来た征服者(コンキスタドール)による侵略を逃れた中南米の人々の末裔……という設定に。メソアメリカ文明の意匠も各部に残る。


・ネイモアのビジュアルを"羽をもつ蛇の神"ことマヤ神話のククルカン=アステカ神話のケツァルコアトルになぞらえたのも、なかなか上手い解釈。


"タロカン"の名は、アステカの雨神トラロックの支配する領土・トラロカンが由来か。


・トラロック知ってる!『仮面ライダーアマゾンズ』で見たから。


・ジャバリ族が信仰する猿神ハヌマンも知ってる。かつて我らがウルトラ兄弟と一緒に戦ってくれた友人だから……


あなたの神話はどこから?


・それにしてもネイモア、いきなり猛烈にアプローチしてくる感じも 人物像がわかりやすくてよかった。なんか……重いんだよな……愛が……


・あとシュリに勝手に母親の幻覚を重ねて見ちゃうトコとか。キショ!


「お母さん……!?ララァが!?」


・タロカンのビジュアルも良い。どうしても予告で流れてた『アバター ウェイ・オブ・ウォーター』とかDCの『アクアマン』とかと比べちゃうんだけど、海流を作り出して移動するシステムとかもよかったし。


・アクアマンのアトランティスはそもそも海底の人たちの国だから"下から上"に建設されてるけど、タロカンは元が地上人だから"上から下"に向かって建設されてるように見えた、と かがせさんの談。


・美麗なVFXを見るたび、スタッフの過重労働問題や『シーハルク』終盤のしょうもないギャグが思い出されるのは辛いところ。ボボボン!やないねん


・そこは本当になんとかしてください。


「Imperius Rex!」はネイモアお決まりの掛け声。字幕で見るまで正直忘れてました(ゴメン)。今回、いろんな言語が色分けされた字幕で飛び交うのがなかなか斬新でいい演出だったと思います。


・そもそもなんで基本英語でしゃべっとんねん、という疑問はこれまでも当然ありましたもんね。今回もそこはまあありつつ……かなり意識して多言語のセリフを取り入れていた印象。


・言語が違う、わかり合えない、争いが起こる、っていう悲しい連鎖をも感じ取れるし。


・MCUオリジナルの設定としては、CIA長官となったヴァル(ヴァレンティーナ・アレグラ・デ・フォンテーヌ)エヴェレット・ロス捜査官が元夫婦だった!という衝撃。


マーティン・フリーマンはこういう板挟みな状況に振り回されるキャラクターがハマりすぎ。


・その他ざっくり雑感。せめてバッキーは葬式に呼んでやれよ!と思ったけど、アヨからしばらくワカンダ来んなって言われてたもんなー。

 

・シュリによるティ・チャラの回想シーン、最後の最後に映ったのは未使用カットだよね?


・シュリのバイクアクション、仮面ライダークウガみたいでカッコ良かった。ハーブの力を得た後にいきなりアクロバティックなパンサーアクションを見せてたこととかも考えると、やっぱり色々訓練してたんでしょうか。


いきなり無からスーツが出てきたのにはビビったけど、アレもいずれパンサーを受け継がなければならないと見越して作ってたものなのかなと。


・あの場面、よく見ると奥にネックレス?みたいなのが浮いてるんですけど、形状が全然違うんですよね。輪っかの下部分に一本だけトゲがついてるみたいな。


・たぶんネックレスじゃなくて頭飾り?なんじゃないかなと。シュリが手に取ったヘルメットの頭頂部がツルンとしてたような……再鑑賞時に要確認。


・ラストの息子登場は……かなりう〜〜〜〜んなポイント。


・ここまでやって結局血統なの!?!?!?っていう。お前パルパティーンの孫かよ!?


・「おめでとうございます!男の子ですよ!」みたいな気持ち悪さも感じちゃった。ティ・チャラからそれぞれいろんな物を受け継いだラモンダ、シュリ、オコエ、ナキア、の話をやっといて……はい正統後継者ドーン!みたいな。


・前作のラスト、ティ・チャラから"何か"を受け継ぐのはオークランドの名も無き少年、彼はウンジャダカのIFかもしれないし、あるいはこの映画に勇気づけられる、世界のどこかのアフリカ系少年少女かもしれない……


……って話だったんじゃないんですか!?と。僕たち私たちがティ・チャラの勇気を受け継いでいくんだ……と思ってたら「あ、スミマセン 息子いるんで!あとこの子の名前"ティ・チャラ"なんで!二代目の応援、よろしくッス!」ってそりゃないよ。


・何をどう感じさせたいのか、わからなすぎて困惑しちゃったのが本音。


・実は隠し子が!って展開で、マイオールタイムワースト映画(デス……NEW……)を思い出してオエッてなったのもあるけど。あのティ・チャラがそんなことするか〜?自分ちょっと解釈違いなんスけど。アポロ・クリードじゃないんだから。


・まあ〜そもそも これからの世界において専制君主制っていうのも変な話なんですよね。そこの解体とかまでやっちゃうのもアリかなあ、と思ってたトコにこれとは……


・さすがにゲスな勘繰りになっちゃうけど、"ティ・チャラ"っていうキャラクター商標を使ってうまいこと商売続けようとしてない……?いくらなんでもそりゃないか。ないよな?


・ま〜こんな感じッス。おおむねラストが自分的に無理すぎただけで、かなり手堅く・マジメに・真摯に作られた映画だったと思います。ブラックパンサーの続編、としても十分によくできてたし。


・フェイズ4のシメがこの作品でよかった、ともハッキリ言える。ライアン・クーグラーはよくやり遂げてくれたと思います。


・また繰り返しになりますが、初日の熱量で感想を語り倒した『リモコンラジオ』もよろしくお願いします。いちばんアツい感想だと自負しております。

 

 

〜〜〜〜〜〜


吹替版で再見したので、改めての感想とか新しく気付いたポイントとか小ネタ・イースターエッグとかをつらつら追記。


・2回目の方がしっくりきた……と かがせさんも言ってたけど、確かにスゲ〜〜しっくりきた。ドラマとしてどこに比重を置いてるのか、を飲み込んだ上で観たからかも。


・初見から爆裂サイコ〜な映画と 2回目以降の方が噛み締めて楽しめる映画って……みんなもあるよね!(言い訳)


・吹替版、まず主演・シュリ役の百田夏菜子さんが大変よかった。


・前作までのあどけなさが残るシュリとは打って変わって……年相応の少女らしい声質は残しつつ……押し殺せない悲しみ、隠しきれない怒り、を抱えながら成長していく感じ。さらに吹き替えの技術自体もかなり熟達しててスバらしかったと思います。


・ネイモア役の浪川大輔さん、コレはもうね。字幕版観ながら浪川さんの声 聞こえてきてたし。これ以上ないハマり役。


・なんだけど、かなり抑えぎみの演技でククルカンの底知れなさを感じさせてくれた印象。


・ていうか 浪川さんって……いや まあ 社長までやられてる大ベテランの人にこんなこと言うのもアレなんだけど ここ6〜7年くらいで爆裂に上手くなられて……というか 演技の幅がメチャメチャ広くなってない?けっこうビビったんだけど今回も。


・ちょっと残念だったのが、タロカン人たちの前で演説をぶちかます場面が原語そのまま(たぶん)だった点。多言語が飛び交うこの映画、他の場面はほぼ皆さんそのまま吹き替えられてたのにマジでスゲ〜〜よ!!!!メチャメチャ大変だったと思います)なぜココだけ……?


・「タロカンよ立て(Líik’ik Talokan)!」とか、チョー聴きたかったんだけどなー。


・個人的MVPなラモンダ様役は幸田直子さん。これはもう流石の一言。アンジェラ・バセットの熱演を100%お届け、これぞ職人技、変換効率MAX!!!って感じ。吹き替えはこうでなくっちゃあ。


・もう……全員よかったんだけどね!(雑)


・あとリリ役の早見沙織さん、この人に関してはゴメンなさい、↑の感想でリリの魅力が見えづらかった、とか書きましたけども……


見えました!!!!!!!!


・ハッキリと見えました。もうね〜、「ああ こういう人だったのか!」と。解像度爆上がり。これもまた吹き替えの魅力……!


・グローワームを見た時のリアクションが最高。本作吹替版のベストアクト。


・ここからは小ネタとか気付きとか。


・まず翻訳に関しては……今回は字幕版の方が全体的に原語(英語)に忠実だったと思います。吹替版の訳も全然、全〜然アリな解釈だと思うんですけど……忠実さ、で言うと字幕版に軍配かなと。


・隠し子については……ぶっちゃけ2回観ても、納得いってないんですけども。ただ ナキアから何度も連絡が来てた、とか 焚き火のシーンでラモンダが何かを伝えようとする(そこでネイモアが乱入してくる)、とか タイミングを見て伝えようとはしてたけどシュリが周囲を拒絶してしまっていた、ってことなのかなと。


・初代ブラックパンサー・バシェンガの名前が前作に引き続き登場(棺桶を送る時と、ハーブの再生に成功した時)。後者の方はなんか急に言われてビックリした。あと前者は「バシェンガ、初代ブラックパンサー」の順番で言ってるから 字幕がちょっとわかりづらい……コレはもうしょうがないけど。


・支援センター防衛の場面、槍を持ってこなかったアネカをたしなめるアヨ。改めて見ると完全に付き合ってる距離感でした。ワッハッハ。


・ヴィブラニウム採掘作戦の指揮官、女性の方のCIA職員を演じてるのはレイク・ベル。なんか髪型とか雰囲気とかがちょっとヴァルに似てて……初見時はヘリから降りてきた時に一瞬 アレ?と思ったり。まあヴァルは髪の毛に思いっきり紫メッシュ入ってるから、全然ビジュアル違うんですけども。


・ちなみに彼女は『ホワット・イフ…?』でナターシャの声を担当されてた人。


・男性の方の職員……の 吹き替えを担当されてたのは山岸治雄さん。以前にリモコンラジオのMCU吹き替え回でも語り倒した通り、おそらくMCU最多出演記録更新中。


(MCUの吹替版について1時間半語ってます。ヒマな方、ぜひお聴きください)


・サウンドトラックの話。タロカン催眠音波、もといセイレーンの歌声は「サントラかと思ったらホントに聴こえてる音だった」というメチャメチャ怖い演出だったけど……


・他にもワカンダに入国する時にゲートを開ける水太鼓の音がそのままサントラに重なってたり、ランニング中のロスがイヤホンを外すと音が小さくなったり……など、前作から引き続き 凝った演出が続く。こういうのスキ。


・そういえば初見時、タロカン人ってどこからワカンダに侵入したんだろう?と思ってたら フツーに飛行機が通る時に開いたバリアの隙間からっぽいですね。


・ラモンダが焚き火をするシーンの冒頭、大中小3頭のゾウの親子を見つめている。前作サントラの名曲『Wakanda』の歌詞では王をゾウになぞらえてその死を悼んでいた……みたいな話を……前作の時に聞いた気がする……ので……たぶん……なんか……そんな感じ……だと思います。

 

Wakanda

Wakanda

  • Ludwig Goransson
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・『Wakanda』の歌詞違いバージョンが今回の『Welcome Home』。コレの歌詞も知りた〜いけど調べても出てこな〜い。情報あればご教示ください。

 

Welcome Home (feat. Baaba Maal)

Welcome Home (feat. Baaba Maal)

  • Ludwig Goransson
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・歌詞違いで言うと、滝での王座を賭けた決闘シーン。前作ではティ・チャラの名前が歌われてたところ(「ティチャラロオォ ティチャラロ」ってやつ)、今回はシュリになってましたね。見届け人だったズリも、長らしき女性にバトンタッチ。


・ていうかアレ、結局どうなるんでしょう。シュリの不戦敗?それとも「エムバクくんは今日も元気いっぱい!」くらいのギャグってこと?


・みんな名前に○○の息子・娘をつけて自称したり呼ばれたりしてましたが(ヤァの娘ナキア、とか)エムバクは"ワカンダの息子"なのがグッときますね。ジャバリ族がそういうの気にしないタイプなのかな?あるいは野生に生まれて親を知らないとか?


・↑の感想にも書いたシュリのヘルメット……の、奥にあるネックレスについて。よく見たらヘルメット自体はかぶってる状態のものと同じだったので、頭飾りではありませんでした。スミマセン…………じゃあアレ何!?!?


・あとはお決まりの小ネタとして、ニュース番組のテロップ。1回目、国連での告発劇について報じた映像ではアントマンことスコット・ラングの自叙伝について。2回目、ラモンダ女王の死を報じる映像ではニューアスガルドでなんかの条約が締結された、とか書いてあったと思います。


・2回目の映像、よく見るとヴァルがリモコンでテレビをつけたのではなく一時停止から再生している(ので、たぶん録画映像をロスが来るまで一時停止していたっぽい)。演出好きな彼女の性格が窺える描写。


・これまたMCUのお約束、ナンバープレート小ネタ。今回は終盤でロスを護送していたら丸太で通せんぼされた車で、ナンバーはCB112976。チャドウィック・ボーズマン、1976年11月29日生まれ。


…………その車でええんか!?

 

 

・前作で藤岡弘、隊長が出てた宣伝が好きだったからうれしい。

 

・藤岡家というと21年の『仮面ライダー ビヨンド・ジェネレーションズ』でも 息子の真威人くんが弘、から受け継いだ仮面ライダー1号/本郷猛役を好演したのが記憶に新しい。

 

・つーかこれ弘、が持ってるナイフ 私物じゃない?

 

・よく見たら二人の娘(天翔愛さんと藤岡舞衣さん)の腰にもナイフがガッツリ提がってて笑っちゃった。

※藤岡家では毎年誕生日にナイフを贈られるため)

 

・それっぽいことを言うけど結局何も起こらず終わる……という隊長シリーズのフォーマットを踏襲しつつ、どんな企画でも本気マジでやってくれる弘、の良さがよく出た企画。ディズニー様、ありがとうございます。