ゼンタイパワード

趣味は広く深く 好きなものを好きなだけ

【超雑感】映画『すずめの戸締まり』

監督・脚本:新海誠

2022年11月11日公開 121分

2022年11月11日、TOHOシネマズ府中にて鑑賞


※感想後半のネタバレ部分には注釈があります

 

 

宮崎に暮らす女子高生・岩戸鈴芽(原菜乃華)の前に、謎めいた美青年・宗像草太(松村北斗)が現れる。好奇心から彼の後を追った鈴芽は、廃墟に佇む"扉"から現れた災いを鎮めるため草太と協力。しかし、突然現れた謎の猫・ダイジン(山根あん)の呪いによって、彼の姿は子供用の椅子へと変えられてしまった。逃げたダイジンを追いかける草太に続き、鈴芽も家を飛び出す。日本を北へと遡る、二人の旅が始まった。


・いや よかったよ!!!!


・やるじゃん、シンカイくん(肩をバン!と叩く)


・まずコンセプトが良い。"鍵"と"扉"、なんぼでもメタファーに応用できるというか。


(特に近年の)新海誠監督作品において、扉、あるいは敷居を越える、という概念は共通して見られるもの。


・ガラガラって開く戸の敷居のレールの部分のアップとか、よく見るでしょ。

 

・なんなら初期作品の『彼女と彼女の猫』とかでも、アパートの内外を隔てる"扉"が印象的だったり。


・内と外、田舎と都会、過去と未来、自分と世界、あるいは此岸と彼岸……とかとか。いろいろ重ねられる上手さ(と、ズルさ)がある。


・今回はそこに"戸締まり"ってことで、鍵を開け閉めする描写も重ねて多用されていた。


・自転車の鍵がカシャ!って軽い音を立てて開くトコからアップで映す。外の世界へ飛び出すために鍵を開く、というわかりやすさと、絵と音のリアリティを徹底したフェチズムの混在。


・新海誠監督、というと もはやその代名詞になった緻密な……スーパーリアリズムに近い細やかな背景描写、に 鮮やかな色空と光の表現


・これね〜〜〜〜 もうコレはフェチだよね。正直 超〜〜〜〜スキ。


・これまでの作風だと性的な意味でのフェチが隠しきれてなくてキモさが漏れ出してる部分があったんだけど、今回は……うまく隠したなオイ!!!(言い方)という印象。


・ヘアゴムも腕に通してたし。


・水溜りにスニーカーで踏み込んだ時に噴き出す泡……コンビニの自動ドアのレールに詰まった枯れ葉……とかとか、リアリズムを徹底的に追求したアニメーションの快楽を浴びられる作品としてまず一級品だと思います。


・フェチで言うと〜。今回 廃墟フェチもあるんだなコレが。


・廃墟……廃墟イイですよね。と言っても今回、かつて人がいた、というか そこに多くの人が生きていた、という空間として(そして、逆説的に"もういなくなった人たち"を想う空虚として)捉えられてるのもあって、あんま気軽にイイって言うのもアレなんですけども。


・風景としての退廃的な美しさも描きつつ……それを単にキレイなもの、として受容してしまうことの危うさにも ちゃんとブレーキをかける描き方はされていたと思います。


・『君の名は。』『天気の子』を経たポスト"3.11"映画として……は まあモヤモヤする部分も残りつつ……いわゆる"セカイ系"として……の作品が孕むキモさも若干は残しつつ……明らかに前2作よりこれらに自覚的、かつ それらに対して現時点でのベストを尽くそうとしてるのが 窺い知れた一本でした。


・やっぱりこういうセカイ系、もといジュブナイルもの、は 戦わなきゃいけない子供、を主人公にするってことで そこに対して大人もちゃんと責任を果たすというか……


・この映画を観た子供に 大人をちゃんと信じてもらえるように、あるいは 観た大人がちゃんとしなきゃと思えるように、っていうのは まあ〜大事だと思うんですよ。そこんとこ、特に近年の新海監督はちゃんとしてると思います。


それに比べて……(以下 中略)

 

 

 

 

 

 

 


〜以下、ネタバレがあります〜

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・まず僕はですね、こういう日本のビッグバジェット・製作委員会制・タイアップしまくり・CM打ちまくりアニメ映画が……好き!!!!


・ココからしか得られない栄養があります。


・あと、こーいう映画は何がイイかって スポンサーさんたちが全力で宣伝するのも好きですね。


・やっぱり映画って 作品単体として、も ありますけど。どこで観たか、とか。誰と観たか、とか。そういう"体験"として記憶に残るじゃないですか。


・なので……あの時、コンビニで旗立てて 垂れ幕も提げて メチャメチャ宣伝してたよな〜!とか。やたら街の自治体とタイアップしてたよな〜!とか。そういう俗っぽい部分もね。評価しときたいんです。あんま記録にも残んないし。


・本作で個人的に最も印象的だったタイアップは……おれも大好き マクドナルド!劇中でも登場してましたね。


子供が後部座席でマック食うと車内がもうメチャメチャに汚れがち、というあるあるまで描かれてました。

 

・スポンサーとしての懐が深い。


・マクドナルドは『天気の子』でも登場。金がなくて3日間スープだけ飲みながらしのいでた主人公・帆高くんが、バイトしていたヒロインの陽菜さんに こっそりビッグマックをもらう場面。


・陽菜さんはその後クビになるし、そもそも(後に明かされるけど)バリバリ違法労働だし。

 

懐が深すぎる……


・『アントマン』のサーティワンと同じ。


・今回のタイアップでは、ハッピーセットのおまけにスピンオフ絵本『すずめといす』が登場。


・しゃ……しゃらくせえ〜〜〜〜。この……子供に擦り寄ってくる感じ!


・別にいいんだけども。「この内容なのに子供向けの宣伝しちゃダメだろ〜w」みたいなダルさはちょっと感じるよね。言いすぎか。

 


・絵本の内容は、幼いすずめがイマジナリーフレンドのいすと一緒に 頑張るおかあさんにおいしいごはんを作ってあげたい!みたいな感じ。

 


・お……

 


重い……!

 


・この……バカ!!!

 


・閑話休題。あとはローソンとかね。現世(うすしお)味のからあげクンとか、ダイジンのおかか&チーズおむすびとか。そうそうこういうの!って感じのタイアップ。

 

 

・イラストもカワイイ。


JRとのタイアップもいいですな。東京の街の風景には欠かせないし。劇中でも鈴芽が駅のホームの自販機で売ってる天然水を飲んでました。

 

 

・しかしこの天然水(From AQUA)、最大の特徴はキャップが落ちてどっかいかないようにカチッと固定できるようになってる……というかそもそもキャップが外せないようになってる(飲む時はカスタネットみたいな状態で固定される)点なんですけども。鈴芽はフツーに外してましたね。ココはちゃんとやってほしかったポイント。


・JR御茶ノ水駅も登場。あのへん、川もあって立体的な街だから背景としてスゲ〜映えますよね。


・……あとたぶん、位置関係的に 東の要石が刺さってたのって アレ皇居の地下ですよね?名言はされなかったけど。


・考察もろもろ。今回、いちばん考察のしがいがありそうな……というか、そう誘導されてるポイントとしてはダイジン要石でしょうな。


・なんかま〜〜〜〜 ここに関しては情報のボカし方が意図的すぎるというか、ジャンルとしてセカイ系アニメたろうとした結果「考察してくださ〜〜〜〜い!!!!」って感じで あえて残された"隙"なんだろうなと思います。


・そもそも岩戸鈴芽、とかもね。まあ"天の岩戸"でしょう、とか。


・ネコは12年で二股シッポの化け猫になって人語を解せるようになるよね、とか。


・"ダイジン"はまず雛人形の右大臣と左大臣、酒の席での"お大尽遊び"、ダイジン=大神=オオカミ、とかとか。


了解で〜す。ありがとうございま〜〜す。


・考察で言うと、まあ今回『君の名は。』『天気の子』から引き続き、3.11こと東日本大震災の存在が大きなテーマになっていて(天気の子は豪雨だけど)


・本作には緊急地震速報の描写、地震の描写があります、というアナウンスはいろんなところでされてはいて、劇場に入る前も注意の立て看板が出てました。アレは全劇場で徹底されてるのかな?


・ただまあ、東日本大震災を直接的に想起させるシーンが描かれます、とは書いてなくて……コレはね〜〜〜〜!!!!バランス難しいと思うんですよ。


・センシティブな事象を描くこと自体がネタバレ……というか、事前に知らせることでその作品が与える衝撃をいくばくか減少させてしまう、というケースは 最近いろいろ目にしていて(主にジャンプ+)(あれらに関しては注釈不足すぎると思うけど)


・僕自身は被災当事者ではない(日本には住んでいたけど 直接的なダメージを受けたわけではない)ので、ここを判断してしまうことはできないんですけども。できる限りのアナウンスはなされてたのではないか……と思います。


・ただ、地震災害=ミミズを 人為的に阻止できたかもしれないもの、という完全なフィクションとして描いてしまうことには 批判が出るのも大いにわかる。


・その上で……周りはバリバリ方言なのに鈴芽は関東のしゃべり方、とか、九州から始まって北上していく展開、とか。ベタながらクライマックスをうまいこと予期させる手法はよかった。


方言よかったですね。神戸弁、というか兵庫の関西弁(○○しとる、じゃなくて しとう、やっとうになる)しか僕は判断できないんですが、よくできてたと思います。


・まあ方言のセリフってね〜〜 難しいとは思うんですよ。たとえば東京の人だって、東京弁のアニメキャラの話し方そのままで話す人は、いない……じゃないですか。いるかもしれんけども。


・ので、方言そのまんまでしゃべったら そこだけ急にアニメっぽくなくなったりはするので。方言、かつ芝居として、って ね。難しいですよね。関西弁キャラとか見ててよく思うけど。


・それで言うと、深津絵里さん演じる叔母さんの環さん。いや〜スゴかった。キレちゃってガン詰めしてくるトコもよかったんだけど……その後の「それだけやないんよ」が泣かせる。


・早起きして作った弁当、鈴芽が忘れてった日……とかね〜。気持ち想像するだに辛いもん。


・あと訛り演技は深津絵里さんが出てた『悪人』を思い出した。


・声の演技でいうとやっぱり神木隆之介くん。まあ〜いろいろやってきたと思うんですけど、今回けっこうビックリするくらい上手くて、上手くてっていうか神木くん感全然なくてビビった。雑に言うと櫻井孝宏・内山昂輝っぽい感じ。


・「闇深え〜」みたいなことを特に考えずにカジュアルに言っちゃう軽さもありつつ、でもその軽さゆえに雰囲気が重くなりすぎない緩衝材としてのキャラを保ちつつ。ザ・いいヤツ

 

・絶対いい先生になって次回作にサプライズ登場するよ。これは予言です。


・主人公の鈴芽も 年相応の危なっかしさはありつつ、どこか達観した部分もある良いキャラクターでした。


・それこそ劇中の鈴芽のように、震災以降の方が生きてきた年数が長くなっている、って層がメインターゲットなんだろうな〜と思ってて。記憶は遠くなってるけど価値観の根底にその存在が残ってる、とか。


・死ぬことは怖くない、すなわち死んでしまうことより、一人残されることの方が怖い……という鈴芽の死生観も、これは彼女の経験ゆえのものなんだろうけど、同じような人も多いんじゃないかなあ。


・では残された者はどうすればいいのか?……という問いに対する答えとして提示されたのが、死と喪失に想いを馳せること、そして"鍵を閉める"こと。


・「行ってきます」ですよね。


・本作のラストでも示唆された、「行ってきます」「行ってらっしゃい」と言ったまま……おそらくそれっきり、になってしまった人たちへの追悼と……それでも前を向いて、扉の向こう、外の世界をこれからも生きていきます、という「行ってきます」。


・今回 個人的にイチバン良かったのが、死者が登場しないこと、でした。


・死者って まあ〜〜 会えない、んですよ。どうやったって。


・ので 生き残っちゃった側は、会えないなりに生きていかなくちゃあならないし……過去の自分をいつか救ってあげられるのは、未来の自分自身しかいない、というメッセージだったんじゃないかな、と思います。

 

 


・あと、フェリーの場面で大好きだったニチレイのフード自販機が登場してて良かったです。


・アレ もう全台撤去されたんですよね。サービスエリア、ボウリング場、ネットカフェ……今までありがとう。


──行ってきます。