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【超雑感】映画『かがみの孤城』

監督:原恵一 脚本:丸尾みほ

2022年12月23日公開 116分

2022年12月28日 新宿ピカデリーにて鑑賞


※感想後半のネタバレ部分には注釈があります

 


学校に居場所をなくし、家に閉じこもっていた中学一年生のこころ(當真あみ)。ある日、不思議な光を放った鏡へと吸い込まれるように飛び込んだ彼女の前に、オオカミの仮面をつけた少女(芦田愛菜)と巨大な城が現れる。こころの他に選ばれたのは、6人の子どもたち。城のどこかに隠された鍵を見つけた者は、どんな願いも叶えられるという……


図書室で一番おもしれ〜本のアニメ化。

 

・SMT(松竹系の映画館)で上映前マナーCMとかジャンジャンやってたけど、いま同時期に公開されてる『すずめの戸締まり』とか『THE FIRST SLAM DUNK』とか『アバター:ウェイ・オブ・ウォーター』とかに押され気味。ガンバってくれ……!

 

・いろんな境遇で不登校になっている子たちが半ば強制的に集められ、問題に立ち向かい、仲良くなっていく……というジュブナイルものの王道は踏襲しつつ、時代性を問わない中学生の悩みやトラブル、丁寧な伏線回収のエンタメ性もガッツリ取り入れた原作小説は(文庫版だと)上下巻構成。

 

かがみの孤城

 

・本作も、そんな長編原作を2時間の映画にまとめるってことで……丁寧に抜粋・再構成してくれていたように思う。


・子どもたちはそれぞれ悩みを抱えてるんだけど、中でもまあメインで描かれるのは主人公・こころの、同級生のいじめっ子に植え付けられたトラウマの話。


・↑では"いじめっ子"と書いたけど、原作でも映画でも"いじめ"という単語はほぼ使われない

 

私がされたことはケンカでもいじめでもない、名前がつけられない〝何か〟だった。大人や他人にいじめだなんて分析や指摘をされた瞬間に悔しくて泣いてしまうような──そういう何かだ。

──『かがみの孤城』辻村深月 p.318より


・"いじめ"という単語にまとめてしまうことで加害や被害は矮小化されてしまうもの。この作品ではそういった加害者を(彼らには彼らなりの事情が……などとスカすことなく)決してわかりあえない、言葉の通じない完全な異物として描いてくれているのがまず良い。


・誰かにわかってもらえないことの辛さや、伝えようとしても伝えられない、信じてもらえるかわからないもどかしさ……といったこころの心情を細かく表現することによっても、(作中のカウンセラー・喜多嶋先生がそうであったように)この作品が被害者の心に徹底的に寄り添おうとしているのがわかる。


・アニメ映画化に当たってこのへんのバランスがどうなるのか……は心配してたポイントだったけど、こころの自罰的な心の声(尺的にカットもあったけど)や加害者たちの恐ろしさなんかは ほぼそのまま残してくれていて……しかもアニメならではの演出で怖さも倍盛りにされていて うれしかった部分。


「この話が誰かの「城」のような居場所になればいい」とは、原作者・辻村深月先生の言。悩みに真正面から立ち向かうのではなく、そこから逃げてもいい……し、自分なりのやり方を見つけて戦えばいい、と教えてくれるような一本でした。


・年末に観たこともあってか、中学生くらいの子供たちでほぼ満席だったのがよかったな〜。


・エンドロールが終わった途端にワッと感想を言い合ったり、半券をそれぞれ持って写真を撮ったりとか。


・本作の入場者特典は、辻村深月先生の原案による7人の子どもたちの"その後"を描いたポストカード2枚セット×3種のランダムだったんだけど、その場でバリバリ開ける音が劇場じゅうに響いてました。みんな気になるよね〜。

 

 

 

 

 

 

 


〜以下、映画と原作のネタバレを含みます〜

※特典のネタバレはありません


ここまで読んでくれてありがとう、

できたらこの先を読む前に

原作も読んでほしいぜ!!!!

 

 

 

 

 

 

 

 

その特典が……ランダムっ……!

 

 

・バ……バカ野郎……!お前っ……!


・まあ……一緒に観た友だちと開けて盛り上がるのを想定してるのかもしれんけど……


・せめてヨォ……!週替わり……!週替わりに……!いやそれも汚いか……


・なんかでも 円盤の特典とかで付いてくる気はする……ていうか付かなきゃダメだけど。


・エグいことしてくれるよね〜マジで。(この作品に限った話じゃないけど)"その後"があるならそりゃ〜〜〜〜見たくなっちゃうじゃんね。しかも辻村先生の原案で……現状、本の続編とかもないから"その後"を描いたものとしては唯一のアイテムだし。


・閑話休題、とりあえず原作からの変更点からざっくりと。


・本作、映画オリジナル要素はほとんどなく、原作からの抜粋・再構成がメインに。特に主人公のこころとリオン(は、特に終盤の姉との思い出)に関する描写は全体的にじっくりめ、それ以外の子たちの描写はアッサリめ……で ラストの記憶再生シーンにまとめて比重が置かれてたような印象。


・他の子たちを映像であんまり深掘りするとトリックがバレやすくなるのもあり、ここはなかなか上手かったポイントかも。


・物語のテンポのための細かい改変……たとえば、原作では最初にこころが鏡に吸い込まれた後、一回目は逃げ切るけど その後また自分から入って説明を聞く……とかは ありすぎるので割愛。


・まず、城のルールについて。ほぼそのままながら「城のことがバレないよう、大人がいる間は自室の鏡は光らない」というルールは特に説明されない。ので、襲われたアキが手鏡に逃げ込むくだりのイレギュラーさは描写でカバー。


・暖炉の部屋に置いてあったアンティークオルゴール(と、リオンがオルゴールを置くくだり)は映画オリジナル。曲が『トロイメライ』(ドイツ語で"夢")なのは、城がリオンの姉の夢の中の産物であることの示唆か。


・それぞれの生きる時間がズレていたことを匂わせるような描写は、終盤までほぼカット。原作ではマサムネが持ち込んだ古いテレビと型落ちのゲーム機(おそらくプレステ2と思われる)をみんなで遊ぶが、映画ではPSPらしきゲーム機をマサムネが遊ぶのみ。


・スバルが『ハリー・ポッター』のロンに似てる、と例えられて戸惑う描写や、それぞれが話す"駅前のショッピングモール"の構造が微妙に食い違う描写などもカット。このへんは固有名詞もいくつか登場して面白かったんだけど……しょうがないか。


・逆に映画で追加された要素として、冒頭の自室でこころが観ていたテレビにお笑い芸人・オードリーらしき姿が映っている。現代でも活躍している二人ながら、この時(2006年)はブレイク前……というか地上波の昼番組に彼らが登場し始めるのは2008年(地上波初出演は06年5月)なので、トリックとしては若干マイナスポイントかも。


・こころがあの歳にしてハチャメチャな若手芸人マニアだった可能性もあるが……


・アキが好きな紅茶がストロベリーティーに変更。原作では、城の女子三人で飲んでいたのはアップルティー→喜多嶋先生から「私の好きな紅茶」として受け取ったストロベリーティーをこころが二人に振る舞い、そのおいしさに感動する……という流れ。


・ストロベリーティー!ってわざわざ繰り返すトコはちょっとわざとらしかったけど、原作でも伏線は全体的にわざとらしいくらいにわかりやす〜く張ってあるので(そもそもジュブナイルノベルだし、真相が早々にわかったからといって損なわれるようなラストの感動でもないので……)まあアリかなと。


・マサムネから教わったゲームをわざわざ"コンピューターゲーム"と表現するスバルは映画オリジナル。スバルは原作だともうちょい影が薄かったような印象だったけど、映画では落ち着いた天才兄ちゃんポジションの良いキャラに。


・スバルがマサムネと別れる直前、原作だと「僕やマサムネが忘れても、マサムネは噓つきじゃない。ゲームを作ってる友達が、マサムネにはいるよ」ってセリフがあるんだけど、コレは残してほしかったな〜!!!


・子どもたちがそれぞれの事情を明確に打ち明けるくだりが削られてる分、マサムネがちょっとしたウソをついたことで疎外されてる……っていうのも匂わされる程度だったしなあ。あの二人、イイですよね。

 

・マサムネのゲーム機に誰もツッコまないのは、「ゲーム開発者と知り合いだからモニターを頼まれてる」と言ってしまったせい。おそらく映画でも似たようなことを言っちゃったタイミングがあったんでしょう。

 

・7+1人の事情をまとめておくと……

1985年 15歳 長久昴→ナガヒサ・ロクレン

1992年 15歳 井上晶子→喜多嶋晶子

1999年 水守実生→オオカミさま

2006年 13歳 安西こころ/水守理音

2013年 14歳 政宗青澄(アース)

2020年 14歳 長谷川風歌

2027年 13歳 嬉野遥(ハルカ)


・本作のキモである、被害者としてのこころに寄り添うようなくだり……特に、カウンセラーの喜多嶋先生のセリフに関してはほぼ原作のままで……「学校に行けないのはこころちゃんのせいじゃない」とか「あれは、ない」とか……アキの「偉い。よく、耐えた」も。このへんは本当に大事なセリフだと思うので、原作から残してくれたことに作り手の真摯さを感じた。


・感想前半にも書いたけど、いじめ加害者・真田美織とその取り巻きたちの恐ろしさや残酷さ、話の通じなさを徹底して描いてくれたのもうれしい。


「ばっかじゃないの、マジ死ね!」の声、ヤバすぎ。演じたのは吉村文香さん(2008年生まれ)とのことで、まあ〜〜〜ひっでえ役どころだったけど 悪役としてかなりベストアクトでした。


・集団で家まで来てガラスの向こうでバンバンバン、のシーンも 顔は見えないけどカーテンの向こうにシルエットがワラワラ出てくる演出が怖い怖い。しかもなぜか泣き出すっていう。ハア〜!?

 

あの子たちの世界は、どこまでも自分たちに都合よくしか、回っていなかった。

──『かがみの孤城』辻村深月 p.138より


・アホ担任の伊田先生藤森慎吾さんの軽薄そうなキャラクターがよく出た声の演技もイイ!)にお母さんがちゃんと一緒に怒ってくれるくだりも原作そのままでうれしかったポイント。


・おばあちゃんの葬式の後、アキを襲おうとした男は、原作だと彼女の母親の再婚相手。

 


怖すぎ!!!!!!!!!!!!

 


・本当にトラウマレベルに怖くてビビった。


・加害者が顔のない怪物のように見える描写は↑のこころのトラウマシーンと被せてる部分もあるのかな。


・鏡の中で願いを叶えるために戦う『仮面ライダー龍騎』の劇場版『EPISODE FINAL』でもソックリのホラー描写(顔に塗りつぶしたようなノイズがかかる)があったけど……関係ないか?ないか。


・映画だと城が閉じた後、アキの問題は解決してなくね……?と思えちゃうけど、原作ではあの後、おばあちゃんの葬式に来ていたパワフルなオバちゃん(おばあちゃんの友人、鮫島先生)に面倒を見てもらいながらフリースクールを立ち上げる様子がエピローグで描かれている。


・原作の特に序盤、まだギスギスしている段階ではそれぞれの子たちのちょっとヤな部分が垣間見えたりもするんだけど……映画ではほぼカット。ワルぶろうとして調子に乗るアキや、本気でウレシノを気持ち悪がるフウカやこころなど。


・ウレシノはかなり脱臭……というか、ポヨポヨした可愛らしいビジュアルも相まってかなり愛嬌のあるキャラクターになっていた印象。梶裕貴さんの声もイイ。ちょっと『アクセル・ワールド』の主人公・ハルユキに近いパターン。


・声、で言うと、フウカは原作だと声優っぽい高くて耳にキンと響く声、という設定だったので どうなるか期待していたポイントだったんだけど、特にそんなこともなく。演じたのは原恵一監督の前作『バースデー・ワンダーランド』にも出演していた横溝菜帆さん。ボソッとしゃべる難しいセリフが多い中、かなり好演されてました。


・それにしても本作……の 専業声優じゃない役者陣、みんな演技がバツグンに上手くて素晴らしいキャスティング。リオン役の北村匠海くんやスバル役の板垣李光人くんなんかは、声の演技が毎回安定してるから実写化モノでも安心して観られる二人だし。


・アキ役の吉柳咲良さん、『天気の子』だとヒロインの弟役だったけど、今回もメチャメチャ上手くて……っていうか宮崎あおい(喜多嶋先生)の声にスゲ〜似てなかった!?意識して寄せてる部分もあるだろうけど、声質とかしゃべり方とかがかなり似ててビックリしながら聴いてました。


・高山みなみさんの「真実はいつもひとつ!」は……割と深刻なシーンだったからけっこうマイナスかも。普通に冷めるよアレ。


・あと……なんかこの映画……音楽(劇伴)が全体的にわざとらしすぎ……っていうか なんか変じゃなかった?


・こころとリオンがいい感じに会話するシーンとか「はいラブラブで〜〜〜〜す!!ヒューヒュー!!!!」みたいに音楽が盛り上がって なんか引いちゃったし。音楽自体はいい雰囲気だったけど使い方よ。


ぶっちゃけ演出も全体的に……年号がグイ〜ンてアップになるトコとか 終盤に出てきた光の階段(何アレ……知らん……)とか 脚本の良さでなんとかカバーできてるけど、若干ノりきれない部分はチラホラあったかも。


・ラストで喜多嶋先生にアキの姿がオーバーラップする演出とかも、ちょっとクドさが……ていうか 基本みんな記憶はうっすら断片的に残りました、くらいのハズ(原作ではそうだし、映画でもたぶんそうだよね?こころもリオンのこと忘れてたし)なんだけどなあ、とか思いつつ。

 


・なんか……読み返すと文句ばっか言ってる感想ですけども 基本的にスゲ〜良かったんですよ!!!!その上で、ね!その上でちょっと、っていう。ウン。観ながらメチャメチャ泣いちゃってたけども。


・リオンと姉ちゃん……人間だった(?)時の美山加恋さんの消え入りそうな演技も良かったし、"オオカミさま"状態の芦田愛菜さんの演技のスゴいこと!ゲームマスターの堂々とした雰囲気と不釣り合いな幼さの入り混じった声、予告でもスゲ〜印象的だった……のくだりも、もう泣けて泣けて。ヒー。


・"死"そのものは願いによっても不可避だったという事実は悲しいように思えるけれど……それでもそんな運命を乗り越えて前に進んでいってほしい、という祈りが城を生み出し、子どもたちを一人にしなかったのだと。エンドロールで弟の行く末を見守る姉ちゃんは、泣きまくってるトコにオーバーキルでした。


・ホントは3時間くらいかけてもっと丁寧にやってほしかったトコいろいろあるんだけど〜〜。ジュブナイルノベルから2時間のアニメ映画に、っていう仕事として考えた時に……かなりいいセンは行ってくれたんじゃないかなあ、と思います。小説が好きすぎるだけに文句多くなっちゃったけどもね。

 

メリーゴーランド

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・エンディングテーマは優里『メリーゴーランド』…………いい曲なんだけど、なんかコレ ちょっとタイアップ風味は入れつつ……普通に恋愛ソングとしても売ろうとしてない?

 


・しゃらくせ〜〜〜〜!!恋愛恋愛恋愛!!!!好き好き好き好き愛してる愛してる!!!!

真田美織かお前!?!?!?

 


・僕の心が汚れているだけかもしれません。