こんにちは、始条 明(@AkiraShijo)です。
あの『バック・トゥ・ザ・フューチャー』がミュージカルに……!?しかも、オリジナルの製作陣の手によって……!との報を聞きつけ、聞きつけたはいいものの、制作が遅れたり、パンデミックで中止になったり、そもそもロンドンやニューヨークでの公演かあ……まあ、いつか行けたらいいな……と思っていたところ、なんとなくロンドンに旅行するか!と思い立ち、予定を立てたのが、2023年の末ごろ。
ホテルを予約し、飛行機を予約し、旅程を組んでいると、日本でも劇団四季による公演が決定!したのが、2024年の1月。オイ!!!!
……ともあれ、ちょうど英語版と見比べられるし、まあいいか……と思いながら、2024年3月、ロンドンはアデルフィ劇場(Adelphi Theatre)にて観劇してきました。
で、これがもう、お世辞抜き、旅行による浮かれ補正も抜きにしても、人生最高のエンタメ体験でした。ホントに。あらゆるエンターテインメントの中で最高、と言ってもぜんぜん過言ではなかった。
そもそも僕は『バック・トゥ・ザ・フューチャー』をカンペキな映画だと思っており、「人生ベスト1映画を決めるとしたら?」と聞かれたらこれと即答する人間なのですが……しかし、本作(ミュージカル版)は………………なんなら、超えてきたかも。いやマジで。
というワケで本記事では、そんな『Back to the Future: The Musical』の英語版(ロンドン公演版。ニューヨークもたぶん、ほぼ同一)について、作中で歌われる楽曲それぞれを詳しく解説!感想も併記していきます。
本作の楽曲はCDアルバム(輸入盤)として発売されているほか、各種サブスクでもすべて配信中。これだけでも全然楽しめます。この記事も、ぜひ聴きながら読んでみてくださいね。
舞台裏を解説したメイキング本の日本語版も、ちゃっかり出版されるらしい。手厚っ!
もう海外で観たよ!という方の復習や、観劇前の予習、日本語版を観劇後のバージョン比較にもどうぞ。
なお記事の執筆時点(25年3月)では まだ日本語版は上演されていないので、タイトルや一部セリフの翻訳は独自のものになります。
曲の概要説明文以降、ミュージカル版での変更点やネタバレに関しては、タップまたはクリックで展開できる折りたたみ形式にて対応しています。
(ただし映画本編のストーリーの流れに関しては、全面的にネタバレしています。ご了承ください)
【こんな感じ。タップしてね】
ジャーン!どうだい、こいつはヘビーだろ?
いまさら『バック・トゥ・ザ・フューチャー』にネタバレなんかあるかよ!?とお思いの方。それが、あるんです……!というのも、もちろん映画の本筋はなぞりつつ、ミュージカル化にあたってアレンジされている部分もありながら……言ってしまえば、アップデートされているんですね。
アップデート、という単語にまとめてしまうのはいささか乱暴かもしれませんが……なんせ40年前の映画ですからして。現代にあらためて語り直される、しかも創作者本人らの手によって……!とするならば、むしろ作品そのものが最新版にアップデートされるチャンスを得た、とも言えましょう。
それも、単に舞台の都合や現代の価値観に合わせてただアレンジする、というだけでなく、それによってより深く描けるドラマあり、アレンジによる「そう来たか!」というツイストありという、アップデートならぬアップグレードと言ってもいいくらいの仕上がりになっているのです。
(しかも……"アップデート"という表現の、なんと未来的なことか!)
オリジナルの製作陣であるロバート・ゼメキスやボブ・ゲイルが大きく携わった作品としては、これまでも映画のその後を描いたゲーム(2010年、未日本語化)やスピンオフのコミック(一部が日本語化、いずれも絶版)、そして忘れちゃならないザ・ライド(稼働終了)なんかはありましたが……『1』のほぼリメイクと言える作品は、これが初めてなんじゃあないでしょうか。しかもこのリメイクっぷりが絶妙ときた。
特に、舞台化にともなうアレンジによるツイストが効いてくる終盤の展開など、本作ならではの面白さに関わる重要なネタバレの前には警告文をつけてあります。
「自分、ネタバレ気にしないので……」というキミにキミにキミ!できることなら、(特に終盤は)ぜひ自分の目で確かめてから……その後に読んで、見比べてほしい!
追伸:2025年3月現在、僕も劇団四季のチケット取れてません。余ってる人いたら連れてってください……
第一幕
"Overture" - 序曲
1985年10月21日、カリフォルニア州ヒルバレー。
世界一有名なメインテーマ(……たぶん、同率1位)で舞台の幕が開く……尺を1分にギュッとまとめたバージョン。ちなみに本作で使用される楽曲は、新曲も含めて映画と同じアラン・シルヴェストリの作曲。
"It's Only a Matter of Time" - ただ時間の問題さ
近所に住む変人博士ドクの家を出たマーティ・マクフライは、ヒルバレーの街を駆け回りながら「僕はラジオに出るんだ!MTVにだって出る!」と、ロックスターとして成功する明るい未来の夢を語る。
街では市長候補のゴールディ・ウィルソンが投票を呼びかける。「未来はきっと良くなる、私だって床掃除から始めたんだから!」
ラストサビはメインテーマ『バック・トゥ・ザ・フューチャー』と同じメロディ。
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"あの"ヒルバレーの街を再現したセット、そこを元気に飛びはねる映画さながらのマーティの姿に、もう感涙(この後もずっと泣いていたのだが……)。
ここで本作は、マーティの夢が「ロックスターになる」であることに焦点を当てる。また、映画では短い役どころながら「
"Audition/Got No Future" - オーディション/もう未来なんてない
放課後、ヒルバレー高校の体育館で行われるオーディションに臨んだマーティのバンド"ピンヘッズ"。『パワー・オブ・ラブ』を披露しようとするも、審査員に制止される。打ちひしがれるマーティ。
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オーディションの目的がダンスパーティではなく、ヒルバレーで行われる地元のライブ・イベントのためのものに変更。また、映画では「音が大きすぎる!」とマーティを制止する審査員役は(『パワー・オブ・ラブ』を歌った)ヒューイ・ルイスのカメオ出演だったが、本作ではストリックランド教頭先生に。
「こんな歌はゴミだ!そしてマクフライ、お前もお前の一族も、みんな落ちこぼれだ!」……言いすぎ!!
"Wherever We're Going" - どこへ行こうと
オーディションの結果を受けて落ち込むマーティを励まし、まっすぐな愛を伝えるガールフレンドのジェニファー。「一緒にいる未来が、私たちの運命」爽やかでまっすぐなラブソング。そこに時計台の修復のため、募金を募るオバちゃんが乱入してくる。マーティは「どこ」ではなく、「いつ」に行くのだが……それはもう少し先の話。
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ジェニファーは映画同様、そこまで出番は多くないものの、青春を象徴するようなグッとくるデュエット。ここで彼女は「私のおじさんが音楽プロデューサーをやっててね、今度、あなたの曲を聴いてくれるって……」とマーティを慰める。
"Hello – Is Anybody Home?" - もしもし、誰かいるか?
帰宅したマーティを出迎えたのは、上司のビフ・タネンに頭が上がらない父親のジョージ・マクフライの姿。ジョージは叶わぬ夢を見るマーティを「競争なんてくだらないさ」と半笑いでたしなめる。
そこに(ヤケクソになりながら)ハンバーガーショップで働く兄デイブ、口うるさい母に不満タラタラの姉リンダ、そして過去に想いを馳せながら「あれはきっと運命だったのよ……」と夢見がちな母ロレインが集合。
父と母の出会いの日が回想されつつ、このままでは落ちこぼれて閉じていく自分の運命に「もしもし、もしもし、誰かいないの!?」と絶叫するマーティ。
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ここで父ジョージが初登場。他のキャラクターたちも"再現度"はスゴいが、この人は群を抜いて映画そっくりだった。
マーティの兄デイブと姉リンダ、この2人も地味ながらお気に入りのキャラクターだったので、歌唱パートがあってうれしい。(明らかにマクドナルドをモチーフにした)アルバイトの制服に身を包み軽快に踊るデイブに、「あたしのプリンスのCD返してよ!あとウォークマンも!」とキレるリンダ、「ご一緒にポテトはいかが!?」と返すだけのマシンと化したデイブが笑える。
運命を信じるロレインが美しい過去を回想しながら歌い上げるパートでは、この後に歌われる「あの人には何かがあったの」("Something About That Boy")のフレーズが差し込まれる。また、ジョージとの出会いのきっかけが彼女の父(つまり、マーティの祖父)の車にはねられ……ではなく、単に彼が家の前の木から落ちてきた、というエピソードになっている。
おはなし的には「こんな家族、もうダメだ!」という意図の場面ではありながら、みんな魅力があり、それぞれなりに人生を楽しんでいるようにも見えてくるバランスがお見事。なんと言っても、これから彼らはマーティが守るべき"現在"の象徴になっていくのだから……
"It Works" - 動いたぞ!
ショッピングモールの駐車場で、エメット・ブラウン博士ことドクと待ち合わせするマーティ。タイムマシンと化したデロリアンを見せつけながら、「動いたぞ!」と実験成功を高らかに宣言するドク。彼のクレイジーさ、ナルシスト的な側面まで茶目っ気たっぷりに表現したダンスナンバー。
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舞台にあしらわれた
本作では、ドクのかわいい愛犬アインシュタインは残念ながらカット。まあバリバリの動物実験だったから……加えて、舞台上で動物が扱いにくいのも一因かも。
曲に合わせて未来っぽい服装の女性アンサンブルがノリノリで踊りまくるのだが、「この子たち、誰!?」と困惑するマーティに「知らん!私が歌いはじめると現れるのだ」と返すドクが面白い。"第四の壁"を壊すような演出もミュージカルならではか。
また本作では、より舞台映えするようにか、デロリアンと時空転移装置のシステムがドクの声にのみ反応する音声認識方式にアレンジされている。
"Don't Drive 88!" - 88マイルは出すな!
死に瀕したドクを救うため、ひとりデロリアンに乗りこんで疾走するマーティ。「絶対に時速88マイルは出すんじゃないぞ!」と言いつけられながらも、急ぐマーティの耳には届かず……
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映画ではプルトニウムの取引をごまかされ、怒り狂ったリビアの過激派に射殺されるドク。本作では、容器から漏れた放射性物質を古い防護服に浴びてしまうことが死因としてアレンジされている。同時に、マーティも離れた場所にある大病院への道を急ぐ設定に。
本作が現代に生まれ変わるに当たって、ココはどうしても気になっていたポイントの一つだった。クフィーヤらしき頭巾を巻いた、色黒で彫りの深い"リビア人"がマシンガンを撃ちまくる(時代とはいえ)なんともメチャクチャな描写である。
ともあれ、いよいよ我らがデロリアンによるタイムトラベル。舞台を疾走する車体、スクリーンに投影される映像(横スクロールから正面の映像にグイッと転換するに追随して、デロリアン本体も回転する)、おなじみのテーマソングも鳴り響き、大迫力の場面に観客も大興奮!
時速"88マイル"は、映画だと"140キロ"と訳されることもあったけれど……日本語版ではどうなるかな?僕はいまだに"マイル"表記を見るたびに「えーと、88が140になるから、ざっくり1.6倍で……」と計算し直しています。同じことをやっている皆さん、友だちになりましょう。
"Cake" - ケーキ
1955年に辿り着いたマーティ。ヒルバレーの街は開発直後の姿に一変(?)していた。「タバコを吸って健康になろう!」「アスベストを吹きつけてお宅を断熱!」「DDTを撒いて害虫とおさらば!」と喧伝する業者たちが次々に登場。
再選を狙うレッド・トーマス市長を中心に
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オールド・アメリカンな雰囲気を残しつつ、50年代当時の"先進的"な街並みのセットや衣装がかわいらしい。もちろん、歌い方や振り付けまでしっかり古い!戦後の雰囲気も落ち着き、急速に明るい未来へ向かおうとする世相が反映されている。
マーティがデロリアンを隠す場所が、過去に到着した地点そのままの納屋に変更。また、農場の主人ピーボディ一家との『スペース・ゾンビ/ダース・ベイダー』関連のやりとりは丸ごとカット。ドクの物真似でデロリアンの音声認証を突破しようとするマーティは必見!
"Gotta Start Somewhere" - どこかで始めなくちゃ
マーティはカフェで若き日の父ジョージと出会う。しかしジョージは相変わらずいじめっ子のビフにいいように使われていた。「どうしてやり返さないのさ?」そこに居合わせたバイトの黒人青年ゴールディも、友人ジョージを激励する。現在では彼が市長に立候補していたことを思い出すマーティ。床掃除のモップを持ったゴールディは、エネルギッシュに熱唱しながら夢を語る。
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オープニングからフィーチャーされていたゴールディ・ウィルソンが若い姿で再登場。公民権運動が始まろうとしていた時代に「市長になるぞ!」と思い立つゴールディの場面は、その演技も相まってコメディタッチながら希望の抱ける名場面だった。ロックスターを目指すマーティ同様、本作では"夢を叶えようとする者"として裏の主人公のような存在に昇格(?)。あえて往年のブラック・ミュージックらしい発声法を強調した歌い方もクール。
"My Myopia" - 僕の近視眼
マーティは、若き日の母ロレイン・ベインズの部屋を双眼鏡でのぞくジョージを発見する。さえないジョージは、憧れのロレインに近付きたくとも勇気が出せない。自分の近眼で見える範囲の世界に閉じこもっていたい、でも本当は君に話しかけたい……とポエミーに歌い上げるジョージ、「父さんはのぞき魔だったの!?」と驚愕するマーティ。
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出ました、ド真ん中の性犯罪。1955年の描写、そしてしっかり気持ち悪いヤツ……と表現されているとはいえ、正直だいぶ厳しいところ。
映画ではこの後、木から落ちてきたジョージの代わりにマーティが車にはねられるが、本作ではマーティがクッション代わりになることで気絶してしまう。また、着替え中のロレインの少々(?)ガサツなかわいらしさも強調されている。
"Pretty Baby" - かわいいあなた
ロレインの部屋で介抱され、目覚めるマーティ。パンツに刺繍されていた"カルバン・クライン"を本名だと勘違いされたまま、ティーン時代の母親に猛アタックを受ける。キュートでアグレッシブな彼女の魅力たっぷりの一曲。
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ある意味、本作のメインヒロインと言える過去のロレイン。ピンク色のガーリーな部屋には、同じく50年代ファッションに着飾った女性アンサンブルも押し寄せる。
"檻の中のジョーイおじさん"をはじめ、ロレインの兄弟は本作に登場せず。ただし、ロレインの母親は妊娠している様子。
"Future Boy" - 未来少年よ
若き日のドクに出会い、なんとか未来から来たことを信じさせたマーティ。1985年に戻るために協力を仰ぐものの、1.21ジゴワットの大電力が必要であると告げると暗雲が立ち込める。プルトニウムもなしに1.21ジゴワットを……?落雷でもなければ、そんなパワーは得られないと一笑に伏すドク。
ドクはマーティをからかって「
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"ノー・フューチャー・ボーイ"は、落ちこぼれて将来の見えない自分自身への皮肉も込められた表現か。曲の後半ではノリノリのアップテンポに転調、コーラス軍団まで登場し、ドクは高らかに「バック・トゥ・ザ・フューチャー・ボーイ(未来に戻るんだ、少年よ)!」とタイトルを回収する。さらに勢いあまって「私こそがフューチャー・ボーイだ!」と調子に乗る始末。
"Something About That Boy" - あの人には何かが
このままでは自分の存在が消えてしまう!ロレインとジョージの距離を縮めるため、ヒルバレー高校へ向かうマーティ。食堂で彼女をダンスパーティに誘うようけしかけるも、そこにビフが乱入。機転を効かせてビフを追い払うマーティだったが、むしろロレインはそんな彼に惹かれてしまい……
「あの人には、きっと何かがあるの!」と夢見がちにマーティを追い求めるロレイン。復讐の炎を燃やすビフは「あの野郎には、きっと何かがあるぞ!」と子分を引き連れてマーティを追いかける。校内のあちこちを駆け回る一大チェイス。
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第一幕のフィナーレを飾るのは、まさかのロレイン&ビフのデュエット。いわゆるパートナーソング的な構成で、同じ曲の中で別の場所、別の意味、別の歌詞を歌いながらそれぞれがマーティを追いかけ、サビのフレーズで重なり合う「
思えばロレインとビフ、映画でもそこまで絡みが多いワケではなかった(この場面でも、校内で別々の場所を走り回るのだが)二人だが、マーティの頭痛の種となる存在としてコミカルに、また強烈なインパクトを残すキャラクターであったので、こう絡めてくるか!と舌を巻いた。
映画ではヒルバレーの街中を走り回っていたが、本作では高校の校内に変更。チェイス中には、光る棒のおもちゃ……というか、明らかにライトセーバーを持ったマーティが「ビフよ……私がお前の父なのだ」と脅すも無視される、コミカル(かつ、若干意味不明)なシーンも。そしてビフは肥料のトラックではなく、食堂のゴミ箱に突っ込んで生ゴミまみれになる。
ちなみに、ビフの取り巻きであった不良3人組は、本作では2人に変更されている。赤青の3-Dメガネをかけた彼はそのまま、残りの2人はなんとなく統合されたイメージの体格のいい青年に。マッチ棒は咥えていなかった。
第二幕
"21st Century" - ああ21世紀
ここは天才科学者・ドクの夢の中……タイムマシンの実現を確信したドクは、飢餓も痛みも存在しない21世紀の明るい未来を空想する。第二幕のオープニングを告げる、エレクトリックなダンスナンバー。
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未来的な銀色のスーツを着たアンサンブルと共に、セグウェイで堂々と登場するドク。空飛ぶ車や火星旅行の夢を語る姿はコメディタッチながら、明るい未来のために我々もガンバっていかないとなあ……と どこか身につまされるような気持ちになる真っ直ぐな歌詞がグッとくる。
"Put Your Mind to It" - なせば成る
ジョージのもとへ押しかけ、洗濯物を手伝いながら彼の背中を押そうとするマーティ。男らしいデートやダンスの極意を伝授しながら、2人でイメージ・トレーニング。
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ヒョロヒョロで弱々しいジョージも、見よう見まねでマーティのダンスを真似てみる。映画にもあったシーンのいわば強化版で、父と息子の奇妙な友情がより楽しげに描かれている。本作の中でもかなり好きな場面。
タイトルにもなっている"Put Your Mind to It"は、映画でもドクの口癖だった「If you put your mind to it, you can accomplish anything.(何事も、なせば成るのだ)」より。本作でもたびたびセリフの中に登場する。
"For the Dreamers" - 夢を見た者たちへ
ヒルバレーの時計台とデロリアンの模型を使いながら、マーティに計画を説明するドク。そんな中、研究室の壁に飾られた科学者たちの写真を眺めながら、夢を見ながらも歴史に名前を残せなかった人々に想いを馳せる……彼の内面が覗けるような、しっとりとしたバラード。
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研究室に並んだ写真たちは単に映画のロケーションを再現した小道具かと思いきや、思わぬところで感動させてくるギミックに。ドクという一人の男から、またSFの金字塔として、この作品そのものから、すべての科学者たちへと捧げるかのような一曲に、またまた感涙。実際、本作を象徴する曲としてピックアップされがち(イベント出演とかでよく歌われている)らしい。
観劇時、ミニチュアのデロリアンを走らせるシーンでコースを大きく逸れていく機材トラブルがあったものの、とっさに「毎回こうなんだ!本番はまっすぐ走らせるんだぞ、マーティ!」「もう、頼むよドク……失敗できないんだから」という即興でカバーしていた。舞台上でのミスはたまったものではないと思うが、プロフェッショナルらしいカバーを目の当たりにできて むしろ感激!
"Teach Him a Lesson" - やつに教えてやる
憎きカルバン・クラインが週末の"魅惑の深海パーティ"に出席することを知ったビフと子分たちは、彼にやり返す計画を立てる。第一幕の"Something About That Boy"の、荒々しく不穏でありながらパワフルなリプライズ。
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チーム・ビフの曲!いかにも
"The Letter/It's Only a Matter of Time" (reprise) - ドクへの手紙/ただ時間の問題さ(リプライズ)
タイムトラベル決行の夜。ロレインとジョージを近付けるためにマーティを高校へ向かわせた後、ドクは一人、カメラに向かって彼への感謝と別れを告げる。一方マーティは、ドクの死を警告する手紙を書き残していた。未来に残してきた恋人ジェニファーを思い浮かべながら、計画の成功を祈るマーティ。
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素直になれないひねくれ者、ヘソ曲がりのドクらしい独り言。そしてここでジェニファー(の幻影)が再登場!ふたたびマーティとのデュエットを歌いながら、どうしても帰らないといけない……!と決意を新たにさせてくれる。
デロリアンを調整するドクは、邪魔の入らないよう警備員に話をつける。ここで再び登場するのはゴールディ・ウィルソン!学費のためか、夜警のバイトを掛け持ちしているらしい。ナイスなアレンジ。
"Deep Divin'" - ディープ・ダイビング
魅惑の深海パーティにて、招待されたマービン・ベリーのバンドが歌う。映画では前奏と後奏だけだった曲が、しっかりフルコーラスで収録。その頃、マーティは車内でロレインに言い寄られていた。
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こんな曲だったんだ……この場面では、ステージから大量のシャボン玉が噴射され、幻想的な雰囲気を作り出す。
ところでマービン・ベリー役のキャストは、なんとゴールディと兼役!ポップな彼とはまた違ったムーディーな歌い方で、パーティに華を添える。どうしても垂れ幕の上に目を凝らしてしまうのはご愛嬌。
このあたりはおおむね映画と同じ流れながら、マーティが閉じ込められるのがマービンの車のトランクではなく、ゴミ箱に変更されている(高校でのチェイスの仕返しか)。
"Earth Angel" - アース・エンジェル
指をケガしてしまったマービンの代わりにギターを弾くことになったマーティ。バンドの歌声に乗せてジョージと踊るロレインだったが、またも別の相手にダンスパートナーを強要されそうになる。しかしマーティとの出会いで成長したジョージは……
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ビフの呪縛を振り切ったことで、あくまで紳士的に、ロレインの誇りと自主性を守るために立ち上がれるようになったジョージ(……という解釈が、より丁寧に表現されていた)。「アース・エンジェル、
"Johnny B. Goode" - ジョニー・B.グッド
両親の関係を歴史通りに修復したマーティ。どうかもう一曲!というリクエストに応え、「僕が前にいた所では、オールディーズなんだけど……」と弾き始めたギターの音色で、観客たちを魅了する。
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マーティから両親へのプレゼントでありながら、(現実の)観客たちも手拍子や口笛で大いに盛り上がりまくる"ごほうび"的な一曲。ここまで来ると"あの場面"が目の前で繰り広げられていることに、もう泣きすぎて何が何だかわからない状態だった。
ここで、映画史に残る"文化の盗用"とも言われる問題のシーン(いとこのチャック・ベリーへの電話)はカットされている。チャック本人は笑い飛ばしていたともされるが、現代に改めて語り直すにおいてはされて然るべき配慮であろう。
"The Clocktower/For the Dreamers" (reprise) - 時計台/夢を見た者たちへ(リプライズ)
いよいよ落雷の時間が迫ってきた。嵐の中で起こるアクシデント、マーティの手紙は破られ、ドクは電線を引っ張り、デロリアンは疾走する!
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ドクはふたたび"For the Dreamers"を歌いながら、友であるマーティの夢を守るため、デロリアンを未来へと送り出す。落雷とタイムトラベルの表現は、クライマックスにふさわしい大迫力。
〜以下、本作の結末に関わる重要なネタバレがあります!〜
"The Power of Love" - パワー・オブ・ラブ
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無事に現在へと戻ってきたマーティ。破り捨てたはずの手紙を貼り合わせていたドクも放射線防護シールドをあらかじめ開発していたことで助かり、今度はそのまま未来への旅へ出発してゆく。
疲れによる深い眠りから覚めたマーティを待っていたのは"ジョージ・マクフライ・デー"。高名なSF小説家となった彼は、ヒルバレーの誇りとしてゴールディ市長からも祝福される。時計台の修復代を全額寄付する、と発表したジョージの最新作は『バック・トゥ・ザ・フューチャー 第4巻』!
そしてジョージは息子であるマーティと、彼のバンド"ピンヘッズ"を紹介。ガールフレンドのジェニファーも加わり、満を辞して『パワー・オブ・ラブ』が披露されるのだった。たまらず乱入したゴールディ・ウィルソン市長ともデュエットしながら熱唱するマーティ。
ここで冒頭、ジェニファーの言っていた"音楽プロデューサーのおじさん"が登場し、ピンヘッズの演奏をノリノリで楽しんでいる。彼の名はヒューイ・ルイス、"The Power of Love"のボーカルその人!ファンサービス的な"目配せ"でありながら、"いとこのチャック"のシーンが形を変えた見事なアレンジとも言える。
"Doc Returns/Finale" (instrumental reprise) - ドクの帰還/フィナーレ
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祝賀会の面前でマーティが歌う中、ドクの運転する改良型デロリアンが乱入。またもや大変な事件が起こっており、速やかに未来へと戻らなければならないという。時速88マイルまで加速するのに十分な道路がないことを心配するマーティだが、「これから行くところじゃ、そんなものはいらんのだよ……」と不敵に笑うドク。
高く浮き上がったデロリアンに設定された目的地の未来は……この公演が行われている、まさにその日時!そして車体はステージを飛び出し、観客席の真上へと本当に飛んで行き、
"Back in Time" - バック・イン・タイム
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キャストたちが再び舞台に上がり、カーテンコール。最後の最後、ジャージ姿のビフがマーティにうやうやしくマイクを渡すと、エンディングテーマの"Back in Time"を、これまた待ちに待ったドクとのデュエットで。ゴールディ市長もまたまた乱入、ジョージとロレインはギターをかき鳴らし、ビフはタンバリンを叩き、ストリックランド教頭もセグウェイで現れる。キャスト全員の合唱で、ステージは大団円を迎える。
手を振り続けるキャストに見送られて幕が降りたあと、そこには「MAKE LIKE A TREE AND GET OUTTA HERE」(ケツまくってさっさと失せやがれ)の文字がデカデカと浮かび上がる……翻訳が難しすぎる、ビフの"言い間違い"名ゼリフ。最後まで笑いにあふれながら、観客は会場を後にする。
総括
大・大・大満足。すばらしいの一言に尽きる。これまで観てきたライブアクションの中でも……どころか、あらゆるエンターテインメント・コンテンツの中でもベスト1と言っていいくらい、ぶっちぎり最高の体験でありました。
ただ単に「あのバックトゥザフューチャーがミュージカルに!」……というレベルをはるかに超越したアレンジの妙には感嘆させられっぱなしだったし、再解釈によって愛すべきキャラクターたちの魅力もより深まっていて。科学、愛、未来への夢と希望をまっすぐに描いた超絶大傑作。五体投地で万人にオススメしたい作品に仕上がっていました。
なんとかメディア化しないかなあ。それか『レ・ミゼラブル』や『ウィキッド』のように、いつまでも再演・ロングラン公演し続けてほしい。
ここまで読んでくれた未来のあなたが、「昔やってたらしいけど見逃しちゃったなあ、こんな内容だったのか」と思っていないことを願って……!