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【超雑感】映画『オービタル・クリスマス』

監督・脚本:堺三保 16分

2022年12月11日、グランドシネマサンシャインにて鑑賞

 

※感想後半のネタバレ部分には注釈があります

 

 

月面に人が住み、有人宇宙ステーションの数も三桁に迫った近未来。クリスマスが近づくある日、古びたステーションに駐在していた男・アリ(ライアン・シュライム)が回収した貨物コンテナから、タカコ(カオリ・ネヴィル)と名乗る少女が現れ……


クラウドファンディングによる資金集めで、国内での映画製作クラファン史上最高額という2182万円を達成した短編作品。


・かつ、日本とハリウッドの製作陣が協力した日米合作。世界各国の映画祭で多数受賞した後、日本で最初に一般公開される凱旋上映イベントにて鑑賞してきました。


・2018年に行われたクラウドファンディングには僕も(スズメの涙の少額ながら……)参加したので、大成功となってうれしい限り。


・監督・脚本は堺三保(さかい・みつやす)さん。アメコミやSF作品の翻訳や解説のほか、アニメの脚本や設定考証などでも活躍中の現在59歳。


・堺さんと初めてお会いしたのは2016年に京都で行われたアメコミ関連のトークイベント。それ以来、オタクの大先輩として後塵を拝しに拝しております。


・堺さんは2007年(44歳の時)からUSC(南カリフォルニア大学)大学院の映画芸術学部に入学されて、ジョージ・ルーカスやロバート・ゼメキスの後輩に。本作も、そこでの同級生たちとの縁から日米合作という形式になったそう。

 

 

・それがお仕事……とはいえ、国内外のクラシックから最新コンテンツに至るまでバリバリインプットされまくっている超人で、まさしくリスペクトの塊。

 

先生センセイと呼ばせてください。


・閑話休題。映画自体は15分の短編ゆえ……あんまり内容を書くと鑑賞の楽しみを削いでしまいかねないので、詳細な感想は以下のネタバレ注意後に。


・プロダクトデザイナーのソノヤマ・タカスケ氏やCGデザイナーのキムラケイサク氏、帆足タケヒコ氏など、堺先生のイメージを具現化するために集結した国内最高峰のスタッフ陣による映像美は驚嘆の一言。ステーション内のVFXや宇宙空間で飛び回るポッドたちなどにも、いわゆる"低予算感"は皆無。


・ワイヤーで表現した無重力空間での動きや、短編作品には極めて重要な俳優陣の表情の捉え方(キャラクターの背景をチンタラ描いてる時間もないため)などもお見事。編集の岩崎伊津子さんの手腕か。


・イベントでは字幕なしの英語版と、日本語吹替版も上映。主演は故・藤原啓治さん。タイミング的にも本作が遺作になってしまったものの、ぶっきらぼうで孤独な男がだんだんと優しさに目覚め……という 実に"らしい"役を好演されていました。


・ハリウッドで活躍する日本人俳優・尾崎英二郎さんも、とある役で出演。今回のイベントのために緊急帰国されたそう。

 

 

・短編作品ということで リリースはいずれサブスク配信とかデジタルレンタルとかになるのかな?とは思いつつ……映画館で観る機会があれば逃さないように!!!な 一本。結構スゴいぜ。


・近未来SFでありながら、"クリスマス"という 実に前時代的で非科学的なイベントを……それでも、そこに託されてきた祈りや想いを肯定するかのようにフォーカスした 優しい作品でした。

 

 

 

 

 

 

 


〜以下、ネタバレを含みます〜

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 


クリスマスって、いいよね……


・クリスマスだ〜〜い好き。シャンメリーってあるじゃないですか?アレって実はけっこう賞味期限長くて、なんなら2年後の5月とかまで保ったりするんですよ。


・自分 酒飲まないんですけど、子供の頃からシャンメリーは大好きで。年中いつもクリスマスパーティーができるように、シャンメリーを買い溜めておいて次の年に開栓するようにしています。


・なので いま『鬼滅の刃』シャンメリーがシンクの下に数本しまってある状態です。


・それはともかく、クリスマス!最近はホリデーシーズンって言い換えたりとかもしますね。そりゃまあ キリスト教信者ばっかりじゃないし。


・ただ……もちろん、キリスト教ってのも完全無欠じゃないし、それぞれの信じる神、それぞれの信じる祝日、がね。全然あるとは思うんですけども。


・それでも……こう……"クリスマス"は、この世のあらゆる人に等しく祝福が与えられる日であってほしい、と思っちゃうんですよね〜。


・「祝え!」って無理に言うんじゃなくてね。友達、家族、全然知らん人ですら、ただただみんなが幸せであってほしいな〜と思う日、というか。


・信教への頓着が薄い日本育ちだからこそ言ってしまえる乱暴な発想だと言われれば そりゃその通りなんですが、でも……主義主張がどうあれ、他者の幸せをただ願うこと、は それは……どうしたって……"善いこと"……なんじゃあ……ないかな!?どうだろう。


・こと"クリスマス"という日に限っては、単なるキリストの降誕祭、という意味合いを離れて……というより なんならむしろそこから離してしまっても全然いいんじゃないか、くらいに思っちゃう。これは乱暴すぎるけど。


・たとえ人類の文化が存続できなくなるくらいの大事件が起きた未来でも、クリスマスだけは他者の幸せを願う日として生き残っていてほしいな。シェルターにも脱出宇宙船にもサンタは来るよ。

 


・で そんなクリスマスの奇跡を描いた本作。


・"クリスマス映画"がジャンルとして確立されていることからも、やっぱり映画という形式において「クリスマスを描く」ということには、特別な意味があると思う。


・そもそもクリスマスというものが「物語によって人の心を動かす」ものの代表格じゃないですか。


・いつか映画を撮りたい!って考えるとしたら……やっぱりテーマの中でも大きな一つとして出てくると思うんですよね、クリスマス。みんな大なり小なり、ポジティブな方向に心を動かされてきたモチーフだと思うので。


・今回、主人公のアリはムスリム(イスラム教徒)の男性、対する少女タカコは……日本人だけど、たぶんほとんど月で育ったからか宗教観は薄いのかな?……な感じで 対極に置いたのは上手い采配。


・このへん、堺先生とも親交が深い池澤春菜さんが執筆された本作のノベライズ版(第52回星雲賞も受賞、WEBで全文公開中)に詳しく書いてあるのかな?と思いますが、実は映画として純粋に楽しむためにあえて未読です。この感想を書き終わったら読もうかな。

 


・どんな人にもクリスマスには祝福を、というか、自分のクリスマス観をより正確に言い表すなら「他者の幸せのためにカッコつけてもいい日」だと思っていて。


・ただ誰かを幸せにするために行動する、って……言うなればカッコつけじゃないですか。今回のアリの行動にしたって、「まあクリスマスだしな」を……照れ隠しというか、自分を鼓舞するためのある種の言い訳、として使ったんじゃあないかな、と解釈してます。


・近未来SF作品としては、すでに旧型となった有人宇宙ステーション、とか 月で暮らしてたけど地球に行こうとする子供、とか そういうディテールも魅力的ながら……


・「先進技術は使いよう」っていうのが、やっぱりキモになってくるんじゃあないかなと思います。今回で言うと、成田で勃発した核テロ(ドローンかなんか使ったのかな)と、アリが作った巨大クリスマスツリーの対比。


・文明が進歩すると悲劇もまた大きく大きくなってしまうけれど、人の心の光を地球全土に示すことだってできるのだ、と。


・……ここまで書いてはじめて気付いたけど、本作のクライマックスって思いっきり『逆シャア』(機動戦士ガンダム 逆襲のシャア)でしたねワハハ。


・アリ、あの後メチャメチャ会社から怒られそうだけど どうだろうな〜。たぶんあの世界のSNSで美談として話題になるだろうし、それでチャラにならないかなあ。


・ジェナ・パーカーさん演じる会社の上司?オペレーター?の女性アニカ、吹き替えは本田貴子さんだったらいいな〜と思いながら英語版観てたら……続いて流れた吹替版はバッチリ本田貴子さんで笑っちゃいそうになりました。オレの占いは当たる。

 


・尾崎英二郎さんが演じてたのは、地球で生きてたタカコの父親役。


・これがまた一瞬しか登場しないんだけど、ヨレたスーツに疲れきった表情で……「うわ〜〜 なんとか逃げてきて大変だったんだろうな」ってのが……ひと目でわかる感じ!演技も演出もお見事でした。


・全然映んなかったけど、たぶん背後に救護テントみたいなのがあって そこから這い出してきたんじゃあないかな?と想像。なんか……それくらいの迫真の演技でした。マジで見えたもん、テント。


・尾崎さんは『ラスト サムライ』『硫黄島からの手紙』に出演後、38歳で単身渡米。ハリウッドで俳優として活躍しつつ、アカデミー授賞式のWOWOW中継などにも毎年出演。


ツイッターに24時間生息している自分としては、めまぐるしく動く昨今のハリウッド情勢を日本出身者として・グローバル俳優としての両視点から鋭く、かつポジティブに発信されている印象が強い。


・もちろんそれまでも実績を積み重ねてはいるけれど、一般的に若いとは言われない年齢になってもなお目標と計画を立てて世界に羽ばたく姿は 堺先生ともどこか重なるセカンド・チャンスマン。


・なんか昔からこういう、歳いっても(お二人ともまだ全然お若いですけど!!!あくまで数字として見た時に、ね)そこで停滞することなくチャンスをつかみとった人って 憧れちゃいますね。日清食品の安藤百福とか、ケンタッキーのカーネル・サンダースとか。リスペ〜クト!


・アメコミ映画好きには『エージェント・オブ・シールド』シーズン2の8話での出演がやっぱり印象的かな。ヒドラに捕らえられて実験台にされるアジア人捕虜の役……ワンシーンながら強〜〜〜烈に焼き付くし、その後の展開(どころか、今後のMCUにも……?)にもメチャメチャ関わってくる場面。


・あとはDCドラマで、二軍ヒーローチームがタイムトラベルして時空を救う『レジェンド・オブ・トゥモロー』シーズン4の5話。『ゴジラ』を撮る前の本多猪四郎役が尾崎さんで、昭和特撮テイストのコミカルな回ながら 原爆や戦争体験といったシリアスなテーマを思い起こさせる役どころ。このドラマはかなり……それはもう かなりハチャメチャなことをやりながらも、多様なメンバーそれぞれが背負う人類の負の歴史もキッチリ描く名作でした。


・あとはAmazonプライム『高い城の男』とかNetflix『オルタード・カーボン』『The OA』とか、大ヒット作に次々出演されてるのを見ると……やはりご本人やエージェントさんの慧眼でしょうか。


・ヤクザとか日本兵とかのコワモテ役が多い印象ですが(ていうか まあ そもそも日本人俳優に幅広い役どころがまだまだ振られてない って話なんですけども)、実際お会いすると大変紳士的で柔和な方でした。


・でもね〜〜〜。もちろん日本人俳優さんたちにはね、もっといろいろやってほしいし、やらせてあげてほしいけど……尾崎さん、そういう役すげーハマるんだよなあ〜〜〜〜。


・あんま見た目でどうこう言うってのもアレなんですけど、やはり俳優はパッと見た時の印象も大事で……ってなった時に、尾崎さんってたぶん戦国時代でも近未来でも ずっと通じる男前だと思うんですよね。どこか哀愁を感じさせる目もいいし、かと思えば厳格さや冷酷さ、狂気を匂わせる時すらある(繰り返しますが、ホントはチョー優しい人です!!!)


・チャド・スタエルスキが監督するっていう『ゴースト・オブ・ツシマ』の映画版とか、出てほしいなあ〜〜〜〜。ピッタリだと思う。

 

・チャドくん、よろしくな!(肩をバン!と叩く)

 


・完全に脱線しちゃいましたけど『オービタル・クリスマス』。どこの誰が観ても優しい気持ちになれる、いいクリスマス映画でした。気軽にみんなにオススメできるようになるといいな。


・今後の『オービタル』世界の広がりや、第二作の長編映画も楽しみに待ってます。