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【短評】映画『鬼が笑う』

監督:三野龍一 脚本:三野和比呂

2022年6月17日公開 124分

2022年10月9日、kino cinéma立川髙島屋S.C.館にて鑑賞

 

※感想後半のネタバレ部分には注釈があります

 


母と幼い妹を守るため、暴力的な父親を殺害してしまった一馬(中藤契)。十数年後、更生施設で暮らしながら劣悪な解体工場で働く一馬(半田周平)は、中国から出稼ぎにやってきた劉(梅田誠弘)ら外国人労働者たちと交流を持つが……


・舞台挨拶・サイン会つきの回を鑑賞。登壇したのは主演・石川一馬役の半田周平さん、一馬の妹まどか役の大谷麻衣さん、一馬の母をカルト宗教に勧誘する桃園役の木ノ本嶺浩さん、監督の三野龍一さんに加え、飛び入りで劉役の梅田誠弘さん。


・木ノ本嶺浩さん目当てで鑑賞しました……(白状)


・冒頭からず〜っとキツいキツい映画。


・父親の家庭内暴力、依存症の母親、前科者への偏見、労働者の搾取、外国人差別、誰も守ってくれない、誰も信じてくれない……


・……は まあ もちろん現代日本の暗部を描いてはいるものの ありきたりと言えばありきたり、とも捉えられるテーマなだけに……俳優陣の演技をいかに引き出せるか、が注目ポイントになってくる。


・で もう それはそれは良かった!タイトル通り 鬼気迫る演技とはこのことよ。


・特筆すべきは一馬の両親。諸悪の根源となってしまう(もちろん暴力は連鎖するものなので、彼にも過去に受けた苦しみがあったのかもしれないが……)暴力パパ役の坂田聡さん。


・怖すぎ!!!!!!


・自分は(ブッ壊れると怒鳴り散らかす人が家族にいたので)人間の怒鳴り声が苦手なんだけど、ウワ〜〜〜〜嫌!!!!って感じの演技がたいへんお上手でした。


・でもヤクザものとかの怒鳴り声はむしろ好きなんだよな〜。なんでだろ?


・一方的に抑圧するでなく 戦うための武器としての怒鳴り声ならOKなのかもしれん。


・お母さん役の赤間麻里子さん、『わが母の記』(12年)でデビュー以来 原田眞人監督作品にだいたい出てらっしゃるイメージ。


・スゴすぎ!!!!!!!!


・いやもう スゴすぎる。半狂乱、というか 限界を超えてしまった人の演技がもう……こりゃ一馬も心折れるわと。


・主演・一馬役の半田周平さん、イイですね。寡聞にして知らなかったけど これから推していきます。

 

 

・舞台挨拶にて、三野監督はキャスティングにあたって"目"を重視したとのこと。何を考えているのかわからないような目がイイと。


・同じく登壇された木ノ本嶺浩さんも"目"がスゲ〜印象的な俳優だなあ、と思っていたので これにはかなり同意。ウンウン わかってるじゃあないか……カントク!(肩を強く叩く)(誰目線?)


f:id:AkiraShijo:20221013111417j:image公式Twitterより


・"いい人"として生きていくには この世界は厳しすぎるけど それでも生きていかなきゃなあ、そして出来れば……ちょっとでも……"いい人"でありたいなあ、と思わせてくれる一本でした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

〜以下、ネタバレがあります〜

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・キノシネマで映画を観たのは……覚えてる限り初めて?かも。上映前、本当に木下グループの宣伝しか流れなくて面白かった。


・美術館とかにも出資してるらしい上に、いろいろ流れたCMも……なんか映像作品として力入ってた気がする。やっぱりこだわってるんだろうか?ありがとう木下社長


・立川のキノシネマは高島屋の上階にあるんだけど、行きがけに入口のインフォメーションセンターで延々と自分語りをしてるおっちゃんを見かけた。


・「すみませ〜ん 映画館ってどこから入ればいいんですかあ?」と聞いたらおっちゃんは恨めしそうに退散していった。正直ちょっといいことした気分にはなったけれど……


・……この"いいことした気分"も用法用量を守らないと、というか 履き違えるとエゴになっちゃうよなー、と思う……


・……思うは思うんだけど、だからって完全否定するのもそれはそれでひねくれすぎだよな〜と。


・たとえば電車で席を譲る時とか……「席を譲って感謝されるオレ最高!!!」って、心の中で、ちょっとだけ思うこと……くらいはいいんじゃない!?と思う。このへんのバランスは人それぞれだと思うけど。


・「アレいいことしたつもりだったけど ホントは迷惑じゃなかったかな……」って振り返る視点は持ち続けていたいところ。


三野兄弟(MINO Bros.)の映画!と銘打たれている通り、監督が兄の三野龍一さん、脚本が弟の三野和比古さん、そしてプロデューサーはなんと他人の三野博幸さん。そんなことある!?


・アバンタイトルで"MINO Bros. Vol.2"(1は『老人ファーム』。主演が本作と同じ半田周平さんとのことでコレも観たい)のテロップがババーンと出るのはまあ……ちょっと鼻につくような気もしなくもなくもなくもないけど こういうのはやったモン勝ちというか、自信の表れでもあると思うので おれは好き。


・A HIDEO KOJIMA GAMEみたいな。


・三野博幸さんは本編にもポイ捨てビジネスマン役でカメオ出演。ポイ捨てを指摘された時の「大丈夫です!」ってセリフはよかったな。無関心と偏見と見下しと拒絶と……をまとめて一言で表してた。


・映画でど〜してもダメな描写、って人によって色々あると思うんだけど、自分は"食べ物が粗末にされる"のがかなりクるタイプ。


・ので、焼きそばや肉じゃがを粗末にする描写が"悪"あるいは人の心を壊していくきっかけ、として効果的に使われていたのは刺さった。


・焼きそばを地面に落として「もったいない!わかる?」って詰め寄るシーンとか最悪すぎてよかったな〜。アレたぶん「日本には"MOTTAINAI"精神がある」みたいな薄っぺらいナショナリズムがヘイトに使われる例として描いてると思うんだけど。


・「日本には四季がある」みたいなやつ。そんなモンどこでもあるわ!


・外国人労働者の自己紹介でわざわざ「日本、大好きです!」って言わせるのとかも。


・肉じゃがで言うと……味見しながら大仰なリアクションを取って雰囲気を明るくしようとする一馬もよかった。声の上げ方のバランスが絶妙。


半田周平さん、ホント良〜〜い演技されますね。舞台挨拶とかインタビューとか見てると、ちょっと役作りが危なっかしい部分もある(カメラ回ってないトコで、あえてキャラクターに近い振る舞いをしてみせるなど)けど そのへんは周囲のキャスト・スタッフとの信頼関係によるものでしょうか。


・いろんな実写版とか出てほしいな。"この人マジ○○そのまんまだった"って言われるタイプのキャラの濃さ、存在感、を感じる俳優さん。


・救いのない映画ではあるけど、終盤の葬式のシーンにはある種のカタルシスがあった。確かに取引先とか社員とか親族とかがいる前で葬式をぶち壊すのって一番ダメージが大きいかも。


・「あ そっか 葬式のぶち壊しって……罪に問われないんだ!確かに!!!」って 膝を打ったような気分になった。

 

 


いやいや普通に問われるわ!調べたら説教等妨害罪(刑法第188条)にあたりました。


・つっても重要なのは"葬式で日雇い従業員が暴れた"って事実が知れ渡るダメージの方だろうし 訴えたりとかもなく追い出されるだけだろうしなー。


絶対真似しちゃダメですからね!!!!


・短い尺の場面とはいえ、一馬に続いて同僚たちも立ち上がったシーンもあったのがよかった。


・『タクシードライバー』ほかアメリカン・ニューシネマの感じを取り入れたかった、とはサイン会での監督の談。ちゃんと入ってるじゃあないか……カントク!(肩を強く叩く)(誰目線?)


・ちょっとモヤモヤが残ったのは、まず中国人労働者・劉さん役のキャスティングについて。


・同じく外国人役のチャン、グエン、ニコラスはミックスルーツの俳優が起用されていたものの、劉の役は日本語ネイティブの梅田誠弘さん。


・梅田さんの演技は本当によかったし、一部スタッフにも日本人だと気付かれなかった(パンフレットより)という中国人役の演技はまさしく芸達者、の一言に尽きる。


・ただルーツアイデンティティに関わる問題の過渡期である現代において、日本語ネイティブである俳優がいわゆる"カタコト"を使い、日本においてはマイノリティである中国移民を演じる……というのは ちょっとよろしくない


・インディーズ映画に目くじらを立てるのも野暮な気もしなくはないが、こういったセンシティブなテーマを扱いつつ 世界にその才能を羽ばたかせていく以上、今後も含めてマイクロアグレッションの排除を徹底する覚悟を見せてほしいところ。期待しています。


・それはそれとして……!梅田さんの技巧と胸を打つ演技は本当に、本当に素晴らしかった。願わくば、当事者を傷付けない・機会を奪わない形で活かしていってほしい技術。


・モヤモヤでいうと、更生施設の入所者がバスの車内でカップルに罵声を浴びせるシーンは明らかに数年前インターネットで話題になった男性をモチーフにしていると思うんだけど……コレもか〜〜なりステレオタイプの補強になってしまっていると思う。


・一馬と劉さんがチャンに"うんこ"を教え込むシーンも意図がよくわからん。こういうのでふざけ合える関係になりました、なのかもしれんけど……"いい人"のやることじゃないよなー。


・妹・まどかの「エゴじゃん」という一言が一馬を追い詰める最後のひと押しになっちゃうのは辛かった〜〜(大谷麻衣さんの演技も良い。お母さんと話すシーンは描かれなかったけど、きっと彼女なりに限界まで全力を尽くしたんだろうと思える人物に見えた)


・ただ、そう描かれてるからこそ「"いい人"であろうとすることは本当にエゴなのか?」という疑問を示してるとも言える。僕自身の考えとしては「程度によるけどNo寄り」かなあ。


・パンフレットに載ってた出來谷英剛氏の評では一馬が"ひとりよがり"、"独善的"と表されてたけど……ウ〜〜ン それはちょっとイジワルな見方すぎないか!?


・お母さんは結局、新興宗教("桃園の誓い")に取り込まれちゃうワケだけど あれもひとつの幸せの形ですね!……とは決して言えんでしょう。


・ところで新興宗教をすべて荒唐無稽、悪質なカルト、と決めつけるのは良くないけども 精神を病んだ人間を懐柔して信者の勧誘に出向かせる連中が"いい人"なワケねーだろ、という部分はきちんと描かれていたと思う。


・返す返すも木ノ本さん、いい勧誘でした(?)。カメラが一馬に向いて桃園が声だけしか出ないカットもあったけど、それがまた 親子関係に侵食してくるイヤ〜な感じで大変よかった。


・ラスト、肉じゃがを囲む三人を見つめる一馬の葛藤と絶望とある種の安心と……がないまぜになった表情よ。ベストアクト。


・みんながちょっとずつ"いい人"になっていけたらいいですね。